税理士賠償責任

印紙税に関しての税理士の責任について

印紙税についてのご質問させてください。

印紙税はそもそも、税理士に税務代理や税務相談の権限がありませんが、

仮に税理士が顧問先に対して、印紙税について間違ったことを教えてしまい、
結果として税務調査で問題となった場合には、税理士はその責任を負わないといけないのでしょうか?

具体的には下記のような内容です。

登場人物
A社(医療法人)、税理士B(以前の顧問税理士)、弊所(現在の顧問税理士)

A社は、以前は税理士Bと顧問契約を結んでいました。
しかし、今年にはいり、税理士Bとの顧問契約を解約し、A社は弊所と顧問契約を結びました。

弊所と顧問契約を結んですぐに、A社に税務調査が入りました。
その際、
A社がお客さんと結んでいる契約書に、まったく印紙が貼っていないことが発覚しました。

当然税務調査で指摘。
契約書は1,000通以上あり、それらすべてに印紙が貼っていない状態です。

A社は開業当初、税理士Bから、
契約書に印紙は不要であると教えられたため、印紙を貼っていなかったそうです。
※A社は医療法人のため、領収書または7号文書に当てはまる場合は印紙不要ですが、今回の契約書は2号文書に該当するため、医療法人でも印紙が必要とのこと

A社は、税理士Bがウソを教えたことにたいして憤慨しており、できれば賠償責任を負わせたい意向です。

ここで質問なのですが、
①税理士Bに対し、印紙税の本税及び追徴の負担を賠償させることは可能なのか?

②税理士Bは、印紙税に関して税務代理権限がないにも関わらず、
顧問先にウソを教えたことに対する税理士法上の問題など生じるのかどうか?
お客さんが税理士会に訴えた場合、問題になるのかどうか?

以上、宜しくお願いいたします。

1 ご質問

>印紙税はそもそも、税理士に税務代理や税務相談の権限がありませんが、
>仮に税理士が顧問先に対して、印紙税について間違ったことを教えてしまい、
>結果として税務調査で問題となった場合には、税理士はその責任を負わないといけないので>しょうか?

2 回答

回答の前提として、
賛否両論あるところかと思いますが、

弊社は、税賠についての
個別相談や交渉・訴訟については、

【税理士の先生側のみ】をお受けさせていただく
方針としております。

もちろん、メーリングリスト上の
一般論の回答については、
問題ございませんので、下記回答させていただきます。

(1)ご質問①〜賠償責任について~

>①税理士Bに対し、印紙税の本税及び追徴の負担を賠償させることは可能なのか?

ア 本税分

まずは、本税分に関しては、通常の税理士賠償責任と
同様に、そもそもお客様が負担するものですので、
「損害」ではなく、税理士に賠償請求はできません。

イ 追徴分

ご指摘の通り、印紙税法に関しては、
税務代理等の税理士の独占業務の範囲には
含まれていません(税理士法第2条1項1号)。

ですので、
通常の税理士損害賠償事案ほどは
広範囲な義務(積極的な確認義務など)
が税理士の先生にあるという認定にはならないでしょう。

また、通常、顧問契約の内容としても、
印紙税法に対するアドバイスは含んでいないで
しょうから、理論上は、無資格のコンサルタントが
税務相談にのって、それを信じた納税者がいたとしても、
それは納税者の責任ですよね(税理士の先生に
相談などすれば防げた)ということと同じように
考えられなくもありません。

しかし、現状、税理士業務の対象としない
租税に関する事務も、税理士法第2条2項の
「財務に関する事務」に含まれるという
解釈がされております。
(税理士法基本通達2−2)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/zeirishi/02.htm

なお、弁護士法の関係はご質問②の通りです。

また、裁判所は、世の中一般の人がどのような認識
なのかという部分を重視する傾向があります。

一般の方の認識からすると、税理士の先生は、
税金のプロであり、印紙税も「税」である以上、
税理士の先生の領域と思われている可能性が
高い上、

その他印紙税の相談にのる属性の
資格者などがいないという点もあります。

そうすると、
積極的に誤りを指導したということですと、
一定限度で責任が認められてしまう
可能性が高いかと思います。

私が調査したところ、印紙税については、
過去の損害賠償において、問題となっている
ものも見当たらないため、なんとも言えない
ところは残ってしまいまして、申し訳ない
のですが、

税理士の先生が責任を負うことはない
とは言えないかと思います。

なお、証拠があるのかという点は別の問題です。
(税賠の場合、納税者様の方の誤解もありえます。
例えば、今回のケースですと7号文書の説明の中で、
医療法人は印紙不要というアドバイスを、
全部(2号文書含む)について不要と説明されたと誤解している
ケースもあり得るところです。)

(2)ご質問②〜税理士法のとの関係~

>②税理士Bは、印紙税に関して税務代理権限がないにも関わらず、
>顧問先にウソを教えたことに対する税理士法上の問題など生じるのかどうか?
>お客さんが税理士会に訴えた場合、問題になるのかどうか?

まず、現実論としては、
独占業務の範囲外で、
税理士会が問題にする可能性は
通常より低いと思いますね。

確かに、
税理士法45条第2項
で、「相当の注意を怠り」
脱税相談類似の行為をしたという
評価はあり得るところですが、

懲戒するかしないかは、
裁量行為ですので、実際には、
積極的に関与していたような
ケース(またはそこまでは証拠は足りないが
おそらくそうであろうというケースに
おいて、45条2項を根拠に処分を
しているというのが実務の現実です。)

その他、法律上問題があるとすれば、

税務相談の枠外の法律相談を行ったとして、
弁護士法違反の点がありますが、

弁護士会の見解は別として、

一般的な法務省の見解などから、
税務調査などの紛争場面(国との対立構造がある
という意味で)における有償代理などは問題がありますが、
(税理士法第2条第2項但書に該当し、法律上は、
税理士は行えないという解釈になるかと思います。)

単純な相談への回答という場面であれば、問題にはならない
と考えられます(弁護士は有償独占であるところ、
顧問契約の料金しかもらっていないでしょうから「有償」とも
評価できないでしょう。)。

よろしくお願い申し上げます。