相続 遺産分割 不動産 所得税 相続税

不動産売却を前提とする代償分割の適否

相続の件でご質問させて頂きます。
(前提)
被相続人 A
法定相続人 B(長男) C(次男) 二名
相続財産 甲不動産(事業用建物及び土地)のみ

遺産分割にて「甲不動産」を2分の1ずつ共有で相続し、
売却することで大筋合意しております。
依頼者Bより、相続人Cが税金関係に対しての意識が低く、相続税
及び売却に係る所得税の税務手続きをCに関わらせずBのみで行う
ことはできないかとの質問が御座いました。

 「換価分割」でなく「代償分割」であれば、相続税は申告等の義務
は生じるが、譲渡所得税の申告はBのみで行うことができる旨回答しました。
ちなみに代償金は「売却代金」から諸費用及び公租公課を除いた額の2分の1を検討して
おります。要は手残りで2分の1ずつなるように設定するものです。
遺産分割協議書には、「Cに代償して金〇〇を支払う」と文言を入れるようお伝えして
おります。

ご質問
1 売却前提の「代償分割」の場合に課税上、「換価分割」と捉えられる可能性はございますか。

2 この場合、相続人Bのみが小規模宅地の特例の適用がありますが、問題はございませんでしょうか。

3 以上のケースで課税上問題になるような事項があればお教えください。

宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①
>売却前提の「代償分割」の場合に課税上、「換価分割」と捉えられる可能性はございます
>か。
>ちなみに代償金は「売却代金」から諸費用及び公租公課を除いた額の2分の1を検討して
>おります。要は手残りで2分の1ずつなるように設定するものです。

(1)合意について

「実態」として、
上記の合意をするということでしたら、
これは換価分割であり、代償分割とはなりません。

つまり、今回のようなケースにおける
換価分割と代償分割の区別は、

甲不動産をBが完全に自由に扱うことが
できるか否か(売却するか否か、いつするか、
誰にするか)というところになります。
(登記上Bの単独所有に一旦するとしても、
遺産分割の内容として、売却することをBに
義務付けるものであれば、これは手続上のもの
に過ぎず、換価分割とされます。つまり、
B、Cの持分1/2ずつの第三者への売却)

ですので、法理論上は、
>売却前提の「代償分割」
の合意というものはありません。

ただし、代償債務を負担するために、
完全な所有権を取得したBの単独の
判断で、結果論として売却し、その対価で
代償金を支払うことは自由です。

つまり、代償分割の場合、
Bは、甲売却の対価により代償金を
払っても良いし、借入をして払っても良いし、
自らの固有財産から払っても良いという形でなくては
ならないということです。

ですので、
たとえ甲の売却代金により代償金を
支払ったとしても、

それは、
B単独の判断であって、
Cとの合意内容(遺産分割の内容)
に売却するかどうかに関連する合意は
してはならないということになります。

ですので、もし遺産分割協議書を
作成するのであれば、Bの売却を
強制するような文言は入れてはいけませんし、

CもBが売却するかはわからないという
前提を理解してもらった上で、それでも
良いなら合意をするということになります。

「代償金は「売却代金」から諸費用及び公租公課を除いた額の2分の1」

というような計算方法の記述では、
売却が前提となりますので、
換価分割と認定されるおそれが非常に強くなります。
(実際には、売却代金確定前に上記の1/2ずつという
合意をするというのは難しいでしょうが、最低限
〇〇円という具体的金額の記述が必要かと思います。)。

実際に、売却代金の帰属者が誰かという
点が問題となった事案(平成3年10月30日横浜地裁)でも、

今回でいうBが、
単独相続する文言がある遺産分割協議書が
作成されていたケースで、

こちらは形式上(売却手続きのため)に
されたものであり、

その他、事実関係(第三者との売却交渉のタイミング
が遺産分割と同時期になされていたなどの遺産分割
の過程)
から、代償分割とはならないとして、
法定相続分(共有持分)に応じて、売却代金が
各相続人に帰属するとされています。

今回は、Cが税金関係への意識が薄い
ということが理由のようですが、
そのようなCの場合、

上記の通り、CがBが甲不動産
を売却するか否かは自由であることを
理解せず、

>遺産分割にて「甲不動産」を2分の1ずつ共有で相続し、
>売却することで大筋合意しております。

という認識のままということですと、
その過程の資料や供述などで、証拠を
取られる可能性自体はありますので、注意が
必要かとは思います。

2 ご質問②及び③

>この場合、相続人Bのみが小規模宅地の特例の適用がありますが、問題は
>ございませんでしょうか。
>以上のケースで課税上問題になるような事項があればお教えください。

個別の特例適用や課税要件については、
ご検討いただきたいですが

仮に代償分割と想定していたものが
換価分割と認定されるおそれが
顕在化した場合には、適用関係の影響を
受けるでしょう。

つまり、代償分割か換価分割かで
問題が生じた場合の甲不動産の所有権の移転は、

◯代償分割の場合
A→(相続)B→(売却)→買主

◯換価分割の場合
・A→(相続)B(1/2の共有持分)→買主
・A→(相続)C(1/2の共有持分)→買主

ということになりますので、
それを前提に特例の適用などをご判断いただければ
と思います。

なお、類似の事案の解説として、遺言の解釈の
ケースですが、
https://zeirishi-law.com/souzoku/igon/kaishaku/

こちらの私の記事もありますので、
ご参考になさってください。

よろしくお願い申し上げます。