今回、顧問先の会社が配当優先無議決権株式としてA種類株式を発行します。
質問)
普通株式の配当がなかった場合、A種類株式のみに配当するということはできないの
でしょうか。
素人ながらには、種類株主総会の別に配当をすることは可能でないか。と考えていま
す。
なお、顧問先会社の顧問司法書士に確認をとったところ、
株主平等の観点から、A種類株式のみに配当を行うことができないという旨の回答を
頂きました。
下記定款もその司法書士の先生が作成しています。
ただ、他方では、株式の種類ごとに平等であることが定款に定めてあれば良いという
見解もあるようで、
私の理解が間違っているのかどうかを教えて頂きたいです。
(顧問先会社の顧問司法書士への質問とその回答そのまま)
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②普通株式で配当がない場合
普通株式に配当なし。
種類株式にのみ配当は可能と思いますが、この場合の基準はありますでしょうか。
自由でしょうか。
⇒こちらは株主平等の観点から、配当があれば全株主に分配、無ければ全株主に分配
無しと解釈します。
従いまして、利益が少ないから優先株主に先に分配して普通株主は0というわけでは
ございません。
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(以下、株式の内容の詳細です。)
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定款 第6条
当会社の発行するA種類株式の内容は下記のとおりとする。
(1)A種類株式は、剰余金の配当について普通株式に優先する。当会社が剰余
金を配当する場合には、A種類株式1株につき、普通株式の配当率に
10%を上限とする優先配当率で剰余金の配当を受ける。
(2)当会社が、会社法の規定により剰余金の配当ができない場合には、A種類株式
についても、配当しないものとする。また、当該事業年度におけ
る剰余金の配当金額が、前号の優先配当金額に達しないときであっても、
次年度以降においてその不足額を填補しない。
(3)A種類株式を有する株主は、株主総会において議決権を有しない。
(4)当会社が、会社法第322条第1項各号に掲げる行為をする場合において
は、法令に別段の定めがある場合を除くほか、種類株主総会の決議を要し
ない。
――――――――――――――
以上宜しくお願い致します。
>普通株式の配当がなかった場合、A種類株式のみに配当するということはできないの
>でしょうか。
>素人ながらには、種類株主総会の別に配当をすることは可能でないか。と考えていま
>す。
2 回答
(1)剰余金の配当につき異なる内容の種類株式を発行している場合の取扱い
剰余金の配当についても株主平等原則の
適用はあります(会社法454条3項本文)。
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(剰余金の配当に関する事項の決定)
会社法第454条
3 第一項第二号に掲げる事項(※永吉注:株主に対する配当財産の割当てに関する事項)についての定めは、株主(当該株式会社及び前項第一号の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数(前項第二号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて配当財産を割り当てることを内容とするものでなければならない。
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したがって、普通株式について、
10株未満の人は、1株につき10円
10株以上の人は、1株につき11円
というような、同一種類の株式について、
その配当金額に差をつけるような配当は、
株主平等原則に反するためできません。
もっとも、
剰余金の配当における株主平等は、
各種類株式ごとに規定されるものであり
(会社法454条3項2つ目のかっこ書き)、
先生ご指摘のとおり、
剰余金の配当について、
異なる定めのある2種類の株式を
発行している場合は、
剰余金の割当てについて、
その種類ごとに異なる扱いを
禁止するものではありません。
(例)
普通株式:1株につき10円を配当
A種類株式:1株につき11円を配当
ただし、異なる取扱いが無制限に
許されるものではなく、
「当該種類の株式の内容に応じ」て、
異なる扱いとすることが許されるにすぎません。
(会社法454条2項)
定められた種類株式の内容の範囲内でのみ、
剰余金の配当(金額)について、
定めることができるということです。
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(剰余金の配当に関する事項の決定)
会社法第454条
2 前項に規定する場合において、剰余金の配当について内容の異なる二以上の種類の株式を発行しているときは、株式会社は、当該種類の株式の内容に応じ、同項第二号(※永吉注:株主に対する配当財産の割当てに関する事項)に掲げる事項として、次に掲げる事項を定めることができる。
一 ある種類の株式の株主に対して配当財産の割当てをしないこととするときは、その旨及び当該株式の種類
二 前号に掲げる事項のほか、配当財産の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨及び当該異なる取扱いの内容
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(2)本件について
ご質問のケースでは、A種類株式の内容として、
普通株式とは異なる剰余金の配当について
定められていますので、
普通株式とA種類株式との間で、
剰余金の配当金額を変えること自体は可能です。
ただし、種類株式の内容として、
許されている範囲でしかできません。
A種類の定款を見ると、
>(1)A種類株式は、剰余金の配当について普通株式に優先する。当会社が剰余
>金を配当する場合には、A種類株式1株につき、普通株式の配当率に
>10%を上限とする優先配当率で剰余金の配当を受ける。
となっており、A種類の配当は、
普通株式の配当率に上乗せで10%を
上限とすることとなっています。
今回は、普通株式につき無配当ということですので、
A種類の配当上限は、
【0円×110%=0円】
となり、A種類についても配当できないことに
なると考えられます。
したがって、ご質問のケースでは、
普通株式が無配当であれば、
A種類についても無配当とせざるを
得ないと考えます。
(3)普通株式無配当、A種類株式配当あり、を実現する方法
上記のとおり、今回、
普通株式:無配当
A種類株式:配当あり
とできないのは、A種類株式の
配当金額の決定方法が
普通株式の配当と完全に紐づいて
定められていることに原因があります。
そこで、A種類の配当金額の決定方法を、
・確定金額(1株につき●●円)で定める
とか、
原則としては、現状の内容を維持しておき、
・普通株式に配当しない場合には、A種株式1株につき●●円を配当する
というような規定を追加しておけば、
普通株式を無配当とした場合でも、
A種類株式への配当を行うということは
実現可能となります。
ご参考になさっていただければと思います。
よろしくお願い申し上げます。
結果として、新たな定款原案を司法書士さんが作成してくださいました。
以下がその新しい定款の原案です。
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定款 第6条
当会社の発行するA種類株式の内容は下記のとおりとする。
(1)当会社は、普通株式を有する株主(以下「普通株主」という)に対して剰余金の配当を行うときは、
A種類株式を有する株主(以下「A種類株主」という)に対し、当該配当に先立ち、A種類株式1株につき、
普通株式の配当率に10%を上限とする優先配当率で剰余金の配当を行う。
(2)当会社が、普通株主に対して剰余金の配当を行わないときは、A種類株主に対し、
A種類株式1株につき金●●円に満つるまで剰余金の配当を行う。
(3)ある事業年度におけるA種類株主に対し、剰余金の配当が前号に定める額に満たない場合でも、
翌事業年度以降において、その不足額を填補しない。
(4)A種類株主は、株主総会において議決権を有しない。
(5)当会社が、会社法第322条第1項各号に掲げる行為をする場合において
は、法令に別段の定めがある場合を除くほか、A種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない。
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一点だけ教えてください。
配当財源があるとして、普通株式の配当は無し決議の前提条件です。
上記定款の理解は以下のどれに該当するでしょうか。
または別の理解があるでしょうか。
1.種類株主総会を別途開催する。
こちらはA種類株主のみで、種類株主総会を普通株主総会と別に開催する。
当然に配当財源があれば、種類株主は配当を決議すると思います。
そのため、実質的には今回の定款でA種類株式1株につき金●●円に満つるまでとしますと、
種類株主は当然配当金が欲しいでしょうから、
毎期配当財源があれば、定款通りの配当を決議するので、
必ずA種類株式1株につき金●●円に満つるまで配当をしなければならない。
2.普通株主総会で上記の内容を定款に従い必ず決議しなければならない。
または、普通株主総会で普通株式が無配当であれば、自動的に決議される。
そのため、毎期配当財源があれば、定款通りの配当を決議するので、
毎期必ずA種類株式1株につき金●●円に満つるまで配当をしなければならない。
3.、配当財源があっても、普通株主総会で種類株式の配当決議をしなければ
種類株主は配当金をもらえない。
普通株主総会で普通株式が無配当、種類株式も無配当という決議は上記定款でも可能。
そのため、配当財源があっても、A種類株主に配当金を支払わないことは可能。
理由は内部留保を優先したいなど。
上記3点のどれかでしょうか。
または、他の選択肢がありますでしょうか。
一番知りたいことは内部留保を優先したいので、
A種類株主に配当金を支払わないことは可能かどうかです。
お忙しいところ恐縮です。よろしくお願いします。
>上記定款の理解は以下のどれに該当するでしょうか。
>または別の理解があるでしょうか。
(1)解釈の結論
おそらく
ご指摘で言うところの「3」の
解釈になると思われます。
(詳細は「2 解釈の理由」)
普通株主について配当しない場合でも、
株主総会で、A種類に配当するかどうか、
配当するとしてどの程度とするか、
についての決定権(議決権の内容)は、
奪われるものではないと思われます。
司法書士の先生が作成された定款の以下の文言も、
このような解釈を意識してのこと
ではないでしょうか。
>「A種類株式1株につき金●●円に満つるまで」
(2)株式の設計について
そもそも、定款変更を行うことがいいのか
どうかという点については、
司法書士の先生からのアドバイスも
受けられていることと思いますが、
弊社では判断しかねる部分があります。
最初のご質問では、
・剰余金配当の財源に余裕がない状況だが、どうしてもA種株主のみには配当したい
というご要望と理解し、これに対する
代替案を示させていただきましたが、
今回のご質問にあるように、
>一番知りたいことは内部留保を優先したいので、
>A種類株主に配当金を支払わないことは可能かどうかです。
というのが、ご要望である場合には、
当初の定款の方が、確定額でない点で
将来の柔軟性が保てる気がしておりますし、
また、当初の定款の規定の方が、一般的です。
ですので、定款変更は不要なようにも思います。
種類株式の内容は、
個別事案に応じた
カスタマイズ性が強いものである上、
手続が重いため、また当初の内容に戻すということが
できない可能性もあり、
変更は慎重に行われた方がよいかと存じます。
あくまでも依頼者様と契約をしている司法書士
さんからメリット・デメリットの説明を受けた
上で、依頼者さまにご意思決定していただいてください。
ただ、念のため
個別具体的な事案における株式設計には、
背景事情や達成されたい目的などを
正確に把握した上で、総合的な判断が必要となってきます。
種類株式の発行がそもそも適切か、
どのようなものとして
設計すべきか、他により良い選択肢がないか
という点については、
会員特典の無料相談などの個別相談をご利用頂いた上、
様々な観点(会社の事業内容、規模・少数株主
の構成、事業承継に関連するものであれば民法上の株価や相続構成など多数)
から、ご要望とマッチしているか、
今後の懸念事項などがないか、他により良い方法がないか
検討した上で、設計させていただくレベルの内容になって
しまうかと思います。
2 解釈の理由
以下は、先生にご指摘いただいた
「3」の解釈になる理由です。
今回は、概念上3つの株主総会があります。
①株主全員(普通株主・A種類株主の両方を含む)による全体の株主総会(A種は、議決権制限なので、実際は、普通株主のみの総会となりますが)
②普通株主のみによる種類株主総会
③A種類株主のみによる種類株主総会
ご質問で使用されている「普通株主総会」という言葉は、
①を意味されているものと思いますが、
紛らわしいので、以下、
①については
・「株主総会」
・「株主全員」(※普通株主・A種類株主を含んだ概念)
という言葉を使います。
>1.種類株主総会を別途開催する。
>こちらはA種類株主のみで、種類株主総会を普通株主総会と別に開催する。
>当然に配当財源があれば、種類株主は配当を決議すると思います。
>そのため、実質的には今回の定款でA種類株式1株につき金●●円に満つるまでとしますと、
>種類株主は当然配当金が欲しいでしょうから、
>毎期配当財源があれば、定款通りの配当を決議するので、
>必ずA種類株式1株につき金●●円に満つるまで配当をしなければならない。
については、配当の決議機関は、
株主総会のみですので、
A種株主にのみによる種類株主総会は
不要です。
したがって、この解釈にはなりません。
>2.普通株主総会で上記の内容を定款に従い必ず決議しなければならない。
>または、普通株主総会で普通株式が無配当であれば、自動的に決議される。
会社法上、株主全員は、株主総会において、
剰余金の配当を行うかどうか、について、
決定することができ、
この点に関する議決権を有しています。
(今回は、A種類株主は、そもそも、
議決権制限株式なので、議決権を有していませんが)
ご指摘のような
>普通株主総会で普通株式が無配当であれば、自動的に決議される。
という解釈をすると、株主全員の議決権を、
剰余金の配当に関する部分について、
制限するという解釈になります。
(配当するかどうかを自由に決められない)
したがって、このような解釈は
難しいと考えられます。
>3.、配当財源があっても、普通株主総会で種類株式の配当決議をしなければ
>種類株主は配当金をもらえない。
>普通株主総会で普通株式が無配当、種類株式も無配当という決議は上記定款でも可能。
>そのため、配当財源があっても、A種類株主に配当金を支払わないことは可能。
>理由は内部留保を優先したいなど。
おそらく、この解釈になるでしょう。
普通株主について配当しない場合でも、
株主総会で、A種類に配当するかどうか、
配当するとしてどの程度とするか、
についての決定権(議決権の内容)は、
奪われるものではないと思われます。
司法書士の先生が作成された定款の以下の文言も、
疑義が残るものになっていますが、このような解釈を意識してのこと
ではないでしょうか。
>「A種類株式1株につき金●●円に満つるまで」
よろしくお願い申し上げます。