相続 遺言 株式 会社法

遺贈により譲渡制限会社の株式を取得した場合

遺贈により譲渡制限会社の株式を取得した場合、

譲渡承認は必要ではないのでしょうか?

(前提)

・甲社は譲渡制限会社です。

・甲社の大株主である会長乙が亡くなりました。

・乙は遺言で甲社株の全てを甥である丙に遺贈する旨の記載をしていました。

・乙の相続人は配偶者と乙の兄弟8人です。

・甲社は取締役会非設置の会社です。

(質問)

・遺言による取得は特定承継に該当し、譲渡承認の決議を行なう必要があるの
では、思うのですが、遺言があるからそれでいい、
ということでいいのでしょうか?

・譲渡承認がなされるまでは、相続人の準共有状態であり、・・・・と考えると
 混乱してしまいました。

・ちなみに兄弟の中には、乙と非常に仲の悪かった人もいます。

よろしくお願いします。

最近、税理士の先生からご相談いただく
ことも多い分野です。

以下、回答します。

1 譲渡承認の要否

>遺言による取得は特定承継に該当し、譲渡承認の決議を行なう必要があるの
>では、思うのですが、遺言があるからそれでいい、
>ということでいいのでしょうか?

「相続させる」旨の遺言などと異なり、
特定遺贈にあたるケースでは、
「特定承継」となりますので、

ご指摘の通り、株主総会の譲渡承認が必要となります。

(相続させる旨の遺言と特定遺贈の違いは下記)
https://zeirishi-law.com/souzoku/igon/jikou/2

2 譲渡承認がない場合の現状

>譲渡承認がなされるまでは、相続人の準共有状態であり、・・・・と考えると
>混乱してしまいました。

少し、小難しい話になりますが、

この場合、株式自体は、当事者(乙と丙)間では、
遺言の効力発生時点で、丙に移転しています。

そして、乙の地位は、各相続人が承継しますので、
各相続人と丙の間でも、株式は丙のものという
ことになります。

ただし、これを会社に主張できるか?という点でいうと

現時点では

・譲渡承認請求に対する株主総会の承認
又は
・譲渡承認請求から不承認の通知が2週間ない状態
(いわゆるみなし承認)

ということがなければ、会社に対して丙が遺贈された株式を
有する株主であることを主張できません。
その場合、「会社として」は、被相続人の地位を引き継いでいる
相続人の準共有状態として扱うということになります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<参考>
(株式会社が承認をしたとみなされる場合)
会社法第145条 次に掲げる場合には、株式会社は、
第136条又は第137条第1項の承認をする旨の決定をしたものとみなす。
ただし、株式会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときは、
この限りでない。
一 株式会社が第136条又は第137条第1項の規定による請求の日から
2週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に
第139条第2項の規定による通知をしなかった場合
二 株式会社が第139条第2項の規定による通知の日から40日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第141条第1項の規定による通知をしなかった場合(指定買取人が第139条第2項の規定による通知の日から10日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第142条第1項の規定による通知をした場合を除く。)
<以下、略>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

3 譲渡承認請求の方法

>ちなみに兄弟の中には、乙と非常に仲の悪かった人もいます。

上記の有効な譲渡承認請求をするには、
相続人と共同して行う
必要があります(会社法137条第2項)。

上記の記事の
「2.2 単独登記の可否」
https://zeirishi-law.com/souzoku/igon/jikou/2#22

と同じ理由になります。

もちろん、相続人も譲渡承認請求に協力する
義務自体は負いますので、
裁判まですれば、丙は勝つことができ、単独
で譲渡承認請求可能となります(会社法施行規則24条第1号)。

相当な嫌がらせ目的がない限り、相続人が協力
しないというのは、裁判対応コストもかかるため、
意味がありませんので、そのあたり説明すれば
協力してくれるのが普通ではあります。

この場合、遺言執行者がいれば、遺言執行者と丙で
共同請求すれば足りることになります。

なお、どこまで厳密にやるかですが、
弁護士などが介入しないケースでは
このあたりは、厳密にしていない
(株主総会のみしている実施しているケース)

はあります(登記と違って、法務局など
が審査するわけではないため)が、

厳密には、上記のようになります。

4 株主総会の承認決議について

>甲社の大株主である会長乙が亡くなりました。

大株主ということですので、
過半数を死亡時点で、乙が保有していたという
前提で回答します。

(1)乙の配偶者が協力してくれる場合

法定相続分でいうと今回のケースでは、
乙の配偶者が3/4の持分を持っています。

準共有状態の株式は、共有者の過半数で
議決権を行使できるというのが判例です。

ですので、
配偶者の協力があれば、会社との関係でも、
承認決議が可能です。

(2)乙の配偶者が不協力だが反対するわけではない場合

遺贈対象の株式がないと、株主総会の定足数を
満たさないため株主総会は開催できません。

この場合は、丙としては上記の譲渡承認請求
をして、何事もなく2週間経過すれば、
みなし承認となると考えてよいと思います。

(3)乙の配偶者が反対票を投じる場合

この場合が厄介なのですが、乙が
反対票を投じて、拒否の通知がされる
ことになります。

そうなると、丙としては、会社に株式を
買い取ってもらうかまたは、株式を代わりに
購入する人を指定するように請求をする
ということしかできなくなります。

そして、また小難しい話ですが、
その会社が買い取るのか、指定
買取人が買い取るのかを改めて
株主総会で決定する必要があります。

ただし、下記の第140条第3項から
譲渡等承認請求者(各相続人)は、
議決権を行使できない(定足数にも含まれない)
ので、最終的には、遺贈対象株式以外の保有者の
過半数が買取及び指定買取人を決めるという
ことになろうかと思います。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(株式会社又は指定買取人による買取り)
第140条 株式会社は、第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求を受けた場合において、第136条又は第137条第1項の承認をしない旨の決定をしたときは、当該譲渡等承認請求に係る譲渡制限株式(以下この款において「対象株式」という。)を買い取らなければならない。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 対象株式を買い取る旨
二 株式会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数)
2 前項各号に掲げる事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
3 譲渡等承認請求者は、前項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、当該譲渡等承認請求者以外の株主の全部が同項の株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。
4 第一項の規定にかかわらず、同項に規定する場合には、株式会社は、対象株式の全部又は一部を買い取る者(以下この款において「指定買取人」という。)を指定することができる。
5 前項の規定による指定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ただ、乙の配偶者は、相続により
株式の遺贈者(譲渡人)の地位も引き継いでおり、
譲渡承認の決議に反対するというのは、
譲渡人の地位(義務)に反する側面があります。

裁判官の判断にはなりますが、
乙の配偶者の行為が信義則に違反するなど、
例外的な法理で救済される可能性は
なくはないのではないかと思われます。

仮に、仲の悪い相続人や配偶者の協力が
得られないことにより、譲渡承認の手続が
貫徹できない事態となれば、
その相続人に対する損害賠償請求など
別途考える必要があります。

5 現実的な対応

本件の会社法上の理論的な帰結は上記のとおりですが、

仮に、株主総会で「不承認」となる又は可能性が高い
場合には、会社法に則って正式に手続きを進める
方がよいのかどうかや、その進め方などについて、
他の相続人のスタンス、会社の状況なども
総合的に考慮した上で、決めるべきと考えます。

このためには、かなり専門的・個別的な
判断が必要になりますので、
手続がすんなりいきそうにない、
ということであれば、弊社の無料相談(その後、必要に応じて
受任など)をご利用になることをおすすめします。

もちろん、他の弁護士先生でも良いと思いますが、
かなり会社法の専門性が必要になるところですので、

誰に依頼するかの選定・見極めは十分にお気をつけに
なった方が良い分野かと思います。

よろしくお願い申し上げます。