Q.株式の取得者から単独で、株主名簿の書換請求が来ております。
・弊社は株券不発行会社
・譲渡制限株式
・株式譲渡承認請求は、譲渡人より事前に行われており、会社は承認し通知を出し
ている。
・取得者は、署名押印済の株式譲渡契約書の原本と、株式代金の振込明細を持参し
てきた。
・取得者と譲渡人との仲が険悪で、譲渡人と連絡がつかず、共同で請求できない。
(株式譲渡契約書には「共同で名義書換する~」の記載が無い。)
株主が取得者に変わったという事実は、間違いないであろうと会社は考えているので
すが、共同ではなく、本件のような単独での請求に対し、
会社が株主名簿の書換えを行った場合、実務的に何か問題は生じるでしょうか?
よろしくお願い致します。
>株式譲渡承認請求は、譲渡人より事前に行われており、
>会社は承認し通知を出している。
ということですので、譲渡承認手続きについては、
問題なく完了しているという前提で回答します。
1 ご質問と回答の結論
>株主が取得者に変わったという事実は、間違いないであろうと会社は考えているので
>すが、共同ではなく、本件のような単独での請求に対し、会社が株主名簿の書換えを行った
>場合、実務的に何か問題は生じるでしょうか?
単独での請求に対して、名義書換えを行うことも
法律上禁止されているわけではありません。
ただ、譲渡の事実がなかったにもかかわらず、
単独請求により名義書換えを行ったとすると、
会社側に責任が生じるリスクがありますので、
「真に譲渡の事実があったこと」の確認は慎重に
なされた方がよいでしょう。
ご質問のケースでは、
会社側に名義書換えに応じる義務はないので
会社側のリスクと、取得者の便宜
(共同で行わせるという手間をかけさせたくない)
という観点を比較して、書換えに応じるかどうかを
ご判断いただければと存じます。
上場企業などは別として、
このようなケースでは、
実務上、会社から名義書換えを
認めるという措置をとることが多いです。
2 回答の理由
(1)名義書換えに応じる義務
ご承知のとおり、
株主名簿の名義書換えの請求自体は、
株式の取得者と譲渡人が共同で行う
必要があります(会社法133条)。
今回は、株式の取得者から単独で
請求がなされているということですので、
適式な請求ではなく、会社として
これに応じる義務はありません。
(2)名義書換えに応じることが禁止されるか
ただ、真に譲渡の事実はあったが、
株主名簿の書換請求がなされていない
(適式な請求がなされていない)場合に、
会社側から、取得者を株主として扱うこと
(株主名簿の書き換えを行うこと)は禁止されていません。
今回の場合も、譲渡の事実が確認できるのであれば、
請求が適式なものではなかったとしても、
会社側で株主名簿の書換えを行うことが可能です。
(3)会社が負うリスクと対策
もっとも、譲渡の事実がなかったにもかかわらず、
会社側で、名簿の書換えを行い、取得者を株主として扱い、
譲渡人を株主として扱わなかったとすると、
本来は株主でない者を株主総会に参加させ、
株主である者を株主総会に参加させなかった
ということになるため、
総会決議に不備があったことになります。
これらが、決議の効力に影響してくる可能性も
なくはありません。
また、配当がなされるとすると、
真の株主でない者に配当し、
真の株主に配当しなかったということになります。
この部分の責任を問われる可能性もあります。
これらが、会社側の負うリスクといえます。
ですので、もし単独での請求により、
株主名簿の書換えを行われるのであれば、
「真に譲渡の事実があった」ということを
しっかりと確認しておくことが重要です。
今回のケースでは、
>・株式譲渡承認請求は、譲渡人より事前に行われており、会社は承認し通知を出し
>ている。
>・取得者は、署名押印済の株式譲渡契約書の原本と、株式代金の振込明細を持参し
>てきた。
ということなので、
譲渡の事実自体はあったの
だろうと思われます。
なお、
これをさらに確実にするためには、
会社側から譲渡人に対して
譲渡の事実の有無について、確認を入れる
というのも1つの方法かと思います。
また、譲渡の事実があったことの証拠として、
取得者から署名押印済の株式譲渡契約書と、株式代金の振込明細の
コピーを提出してもらい、会社において保管されておいた方がよいでしょう。
よろしくお願い申し上げます。