民法 貸倒

法務的観点から貸倒損失、売上値引き、寄付のいずれになるかに関して

以下のことに関して法務上の観点からのご教示をいただきたく思います
のでよろしくお願いします。
なお、お客様としては立場上応じざるをえないので税務上は貸倒損失な
いし売上値引きでないと腑に落ちないということでありますので、まず
法務上の観点に関することを検討し、それを踏まえて税務上の取り扱い
を確認し、その結果を納得していただくというようにするのがよいと考
えまして投稿させていただくことにしました。

(前提)
1.A社はB病院の入院患者へ入院セットリースや紙おむつセットの提供
 などを行っている。集金は収納代行会社に依頼している。
2.毎月、入院患者からA社への支払いがなされた時点でB病院への販売
 手数料が確定するという契約になっている。
3.B病院の入院患者である甲氏はA社への支払い代金を約500万円滞納
 している。甲氏には平成25年6月から成年後見人が付いたが、その滞納
 金はその後見人が付く前である同年5月までの間に生じたものである。
 甲氏と契約したのは平成22年4月1日である。
  その成年後見人は弁護士さんである。
4.その成年後見人がついてからコースをA社への毎月の支払いが可能な金
 額のものに変更した。
5.このたび、B病院の副理事長が、その成年後見人から甲氏が滞納している
 金額の約半分である250万円をまけてもらい、残額を毎月1万円ぐらい
 ずつ支払いたいのでそのことを連絡してほしいと依頼され、A社はそのこ
 とを知らされた。ちなみに口頭でである。
6.力関係B病院のほうが強くA社は上記5のことに従わざるをえない。

(質問等)
1.上記事実認定からすると売上値引きとすることは無理であると考えます
 がいかがでしょうか。
2.甲氏が債務超過の状態であれば」法人税法基本通達9-6-1④による
 貸倒損失とすることが可能であると考えますが。
3.上記2の可否に関しては甲氏の成年後見人に債務超過であるかどうかの
 確認が必要となってきますが、具体的な数字も示してもらうことは個人情報
 保護の見地などから無理ではと考えますがいかがでしょうか。
4.甲氏が債務超過の状態でないならば単なる免除(寄付)となると考えます。
 この場合には、前文でも述べたとおりA社としては応じざるをえないのに
 寄付となるということは腑に落ちないでしょうけど、それは仕方ないと思
 います。
5.いずれに該当しても、口頭で済ますのではなく文書を交わすべきと思い
 ますが。例えば、250万ほどまけてほしい理由について、A社は承諾する
 旨のことなど。
 また、その場合は郵便またはメールのどちらでもよいでしょうか。
6.貸倒損失に該当する場合は、内容証明によりかつ配達記録付とすべきで
 しょうか。
7.寄付となる場合は普通郵便ないしメールによってでよいでしょうか。
8.文書を交わすべき場合のお互いが作成するものについて各々が最低限
 記載すべきことなどその内容に関する注意点がありましらお教えください。

以上のことに関してご教示いただきたく思いますのでよろしくお願いいたし
ます。

ご質問数が多いため、
ご質問1〜8に対して、順次
「質問→回答」の流れで
回答いたします。

なお、ご質問の前提から
今回の契約関係は、
A社と入院患者様の間に
あるということのようのですので、
そちらを前提に回答します。

もし、疑義があれば、今一度
ご確認ください。

1 ご質問①
>1.上記事実認定からすると売上値引きとすることは無理であると考えます
>がいかがでしょうか。

法律上、「売上値引き」という概念があるわけではないのですが、
先生のご指摘の通り、この事実関係からすると、
会計上で利用する「売上値引」ということにはならないのでは
ないかと存じます。

あとは、お客様にリスクを説明した上でどのような処理を
していくのかというところになるかと存じます。

2 ご質問②
>2.甲氏が債務超過の状態であれば」法人税法基本通達9−6−1④による
>貸倒損失とすることが可能であると考えますが。

はい。
実務上は、
法人税法基本通達9−6−1④の規定によれば、
債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を
受けることができない場合にあたれば、貸倒損失とする
ことも可能です。

ただし、「債務超過状態の相当期間継続」と
「弁済を受けることができない」とまで
評価できる証拠資料は集めておく必要があります。

3 ご質問③
>3.上記2の可否に関しては甲氏の成年後見人に債務超過であるかどうかの
>確認が必要となってきますが、具体的な数字も示してもらうことは個人情報
>保護の見地などから無理ではと考えますがいかがでしょうか。

その点に関しては、A社はあくまでも、債務を免除して
あげる側ですので、債務免除をする代わりに
具体的な数字をだしてほしい旨の交渉は可能かと思います。

実際に、税務上の問題もあるのでということで
交渉すれば、先方の弁護士としては免除を得たい
と考えているでしょうから、提示してくれる
可能性はあります。

なお、後見人の弁護士がそれをすることが
面倒などと考える場合には、
個人情報などの問題を理由に拒否してくる
ということも考えられますが、
そこは、A社がどれだけ強気に交渉
できるかによるかとは思います。

後見人としては、情報を出すか出さないか
について、判断して出すこともできます。

4 ご質問④
>4.甲氏が債務超過の状態でないならば単なる免除(寄付)となると考えます。
>この場合には、前文でも述べたとおりA社としては応じざるをえないのに
>寄付となるということは腑に落ちないでしょうけど、それは仕方ないと思
>います。

貸倒れに関して、最も著名になっている興銀事件
(最高裁平成16年12月24日)では、
債務者の事情のみならず、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
債権回収に必要な労力、
債権額と取立費用との比較衡量、
債権回収を強行することによって生ずる
他の債権者とのあつれきなどによる
経営的損失等といった債権者側の事情
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
も加味して判断するとされています。
調査で指摘された場合に、この判例を
理由に反論するということは考え
られるところですが、

上記の理由のみですと、実務上は、
それでも難しいかと思われます。

この辺りも、
お客様にリスクを説明した上でどのような処理を
していくのかというところになるかと存じます。

5 ご質問⑤
>5.いずれに該当しても、口頭で済ますのではなく文書を交わすべきと思い
>ますが。例えば、250万ほどまけてほしい理由について、A社は承諾する
>旨のことなど。
>また、その場合は郵便またはメールのどちらでもよいでしょうか。

このようなケースだと、合意書または確認書という形で
両者の署名押印の元、契約をされるのが通常です。

このあたりは、先方に後見人の弁護士
がついているということであれば、
こちらの要望を伝えた上で、合意書
を作成してもらうという形でも
良いかと思われます。

6 ご質問⑥
>6.貸倒損失に該当する場合は、内容証明によりかつ配達記録付とすべきで
>しょうか。

先方の出方によるところですが、
相手と確認書や合意書を締結できない
ということでしたら、
債務免除の意思表示として、

そのようにされるべきかと思います。

内容証明で、意思表示の問題。
配達記録で、期ズレの問題(到達時に効力発生なので)。
について、証拠を残しておく
ためです。

7 ご質問⑦
>7.寄付となる場合は普通郵便ないしメールによってでよいでしょうか。

通常は、今回のような
ケースですと、合意書をちゃんと
取り交わすということになると思います。

ただし、一方的な免除の意思表示かと
思いますので、A社としては、
普通郵便やメールであっても、特に
不利益はないかと思われます。

8 ご質問⑧
>8.文書を交わすべき場合のお互いが作成するものについて各々が最低限
>記載すべきことなどその内容に関する注意点がありましらお教えください。

先方が弁護士ということなので、
その辺りは、先方が作成
してくるかとは思いますが、

A社としては、

>残額を毎月1万円ぐらい
>ずつ支払いたいのでそのことを連絡してほしい

この支払いが滞った場合には、残額
全額を返済する旨の規定は入れておいたほうが
良いかと思います。

その他の事情としては、

B病院との関係や、具体的事情による
かと存じますが、

>残額を毎月1万円ぐらい
>ずつ支払いたいのでそのことを連絡してほしい

この支払いに懈怠があれば、免除した半額
分も含めて、全額返済するという規定の
仕方もありかと思います。

この場合、解除条件付き債務免除の
意思表示になりますが、

何かの条件が成就した場合に債務免除
の法律効果を消滅させるというもので、

具体的な事情によりますが、今のところ、
解除条件付きで債務を消滅させた事案
については、債務免除時に債権が消滅
したとして、貸倒れに参入できるという
ことになっています(もちろん、その他の
貸倒れの要件を満たせばですが)。

9 その他

今回の事例ですと、A社の債務免除は、
あくまでも、A社と患者様との問題で、

病院への手数料の支払い金額については、
法的には、
直接的に影響を及ぼすものではありません。

ですので、合意書、それが難しければ、
メールなどの証拠に残る形で、B病院に
対する手数料の支払いについても
半額になるなどを確定させておいた
方が良いかと存じます。
(そもそも、A社とB病院での
手数料の支払いについての契約書
でその点が、明示されている場合は
不要です。)

よろしくお願い申し上げます。