・甲社は取締役会非設置の会社です。
・株式の半分を持っている代表取締役乙が非常勤の取締役と
なりました。
・乙に対して退職金を支給する臨時株主総会を招集して、退職金を支給しました。
・税務の問題は無視していただいて、法務面からのアドバイスをお願いします。
(質問)
①臨時株主総会を招集するにあたり、招集通知を書面で発する必要がありましたか。
会社法298条1項3号又は4号にある書面投票、電子投票を定めていないこと
及び取締役会を設置していない会社であることから、299条2項により
書面で通知することは求められてはいないことから、口頭でよいと考え、
社長から各株主に、3日前までに口頭で通知しました。
結果、40%の株式を有する株主丙が当日欠席しました。
丙が反対勢力といった話ではないのですが、招集手続としては
問題があったのでしょうか。
なお、甲社の定款においては招集通知について次のように記載されています。
「株主総会の招集通知は、当該株主総会で議決権を行使することができる
株主に対し、会日の3日前までに発する。ただし、書面投票又は電子投票を
認める場合は、会日の2週間前までに発するものとする。」
②乙は、自分が受ける退職金支給の議案について、議決権を行使することができるのでしょうか。
上記の2点、よろしくお願い致します。
(1)ご質問①~招集手続の適法性~
>①臨時株主総会を招集するにあたり、招集通知を書面で発する必要がありましたか。
取締役会非設置会社の招集通知は口頭で行うことができ、
また、3日前までという招集期間の点も満たしているので、
招集手続は適法と考えられます。
ただし、口頭の場合、通知をしたという証拠がない
ということがありますので、ご注意ください。
(2)ご質問②~議決権行使の可否~
>②乙は、自分が受ける退職金支給の議案について、議決権を行使することができるのでしょうか。
議決権の行使自体はできます。
ただ、乙が議決権を行使した結果、
「著しく不当な決議」がなされた場合には
決議取消しの対象となりますが、
具体的な事情によりますが、今回の事例ですと
実際に取消される現実的な可能性は、低いと考えられます。
2 回答の理由
(1)ご質問①~招集手続の適法性~
ア 招集通知の方法
ご質問のケース
(会社法298条1項3号又は4号にある書面投票、電子投票を定めておらず、
取締役会非設置会社である)では、
ご指摘のとおり、臨時株主総会の招集は、書面で行う必要はなく口頭で行うことが
できます(会社法299条2項反対解釈)。
なお、口頭だと、招集したことの証拠が残らないので、メールなど残る形で行っておく方が望ましいです。
イ 招集通知の期間
取締役会非設置かつ非公開会社(株式の全部に譲渡制限をつけている会社)
であれば、定款で定めた期間までに、招集通知を行えば足ります
(会社法299条1項カッコ書き)。
非公開会社かどうかは、ご質問には記載がありませんが、
公開会社であれば、取締役会の設置義務があります(会社法327条1項1号)
ので、取締役会を設置していないということは、非公開会社であると思われます。
ですので、
今回は、取締役会非設置かつ非公開会社ということで、
定款で定めている3日前までに、招集通知を行えばよく、
期間の点も満たしていると考えられます。
(2)ご質問②~議決権行使の可否~
ア 議決権行使の可否
乙自身が退職金の支給を受けるということで、
特別利害関係の点をご心配されているかと思いますが、
株主が特定の議案について特別利害関係を有している場合
でも、決議に参加することはでき、この点、取締役会の場合とは異なります。
ですので、乙は、自己に退職金を支給する議案につき、
決議に参加することができます。
イ 「著しく不当な決議」の取消しについて
今回の乙のように、特定の議案について
特別な利害関係のある者が決議に参加し、
その結果「著しく不当な決議」がなされた場合には、
決議が取り消される可能性があります(会社法831条1項3号)。
「著しく不当な決議」かどうかは、
退職金の金額やこれまでの乙の会社への貢献度等にもよるところか
と思われますので、いただいた事情のみでは判断はできませんが、
仮に、「著しく不当な決議」であったとしても、
原則的には決議は有効であり、決議取消しの裁判(会社法831条1項)により認められた
場合のみ無効となります。
この決議取消しの裁判を提起できるのは、
会社の株主や取締役などの関係者に限定されており
かつ
決議のときから3か月以内に限定されています(会社法831条1項柱書)。
3か月をすぎれば、「著しく不当な決議」ということで
取り消される可能性はなくなりますし、
そもそも、訴える人(不満を持っている人)が
関係者にいないのであれば、取り消しの裁判が起こされる
可能性は高くはありません。
今回決議に参加しなかった丙も
反対勢力ではないということですと
(手続き上の問題だけですと)
そもそも、3か月以内に決議取消しの裁判が
起こされる可能性は
現実的にはあまり考えられないのではないかと思われます。
よろしくお願い申し上げます。