相続人に認知症と思われる者がいる場合、分割協議をするためには必ず成年後見人等
を選任しなければならないのでしょうか?
>相続人に認知症と思われる者がいる場合、分割協議をするためには必ず成年後見人等
>を選任しなければならないのでしょうか?
認知症の方本人が行った遺産分割協議は、「意思能力なし」として、法律上無効になる可能性があります。ですので、認知症という診断が出ているのであれば、成年後見人をつけておくのが法的には最も安全ですので、できればその方法をとることをお勧めします。
ただ、認知症の方がすべての財産を取得する場合には、本人に不利な要素はなく、法的な効力はどうであれ実際に無効主張がなされる可能性は相当低いので、成年後見人を付けずに進めるというのも一案です。
また、遺産分割協議書を公正証書で作成しておくことで、無効主張がなされる可能性を低くしておくことができますので、成年後見人をつけずに手続きを進められるのであれば、この方法もご確認ください。
2 回答の理由
(1)認知症と意思能力の関係
遺産分割協議は法律行為なので、これを行うには、本人に「意思能力」(自分の行為の結果を判断することができる能力(契約の意味を理解できる能力))が必要になります。
未成年者の場合は、7歳ぐらいから意思能力が備わりだすといわれています。また、意思能力の有無は、締結する契約の内容の複雑さや、対象となる契約の金額などによっても異なってきます。
高齢者の意思能力について、まず重視されるのは、診断書などの医学的な診断です。また、契約内容の複雑さや財産額なども考慮の対象とされます。
認知症だからといって、確実に意思能力なしとされるわけではありませんが、認知症で症状が進んでしまうと、意思能力がないと判断されることが多くなってきます。
現状で、認知症の診断が出ているということであれば、意思能力がないとされるリスクが高いです。このような状況で、法的なリスクをゼロにするということであれば、成年後見人を選任する必要がありますし、お勧めします。
ただ、成年後見人を選任せずに手続きを進められるということであれば、以下もご参照ください。
(2)協議内容と意思能力
ア 認知症の方が全ての財産を取得する場合
遺産分割協議の内容が、認知症の方がすべての財産を取得するというものであれば、認知症の方にとって不利になる要素はありません。「意思能力なし」で、法律上遺産分割協議が無効であったとしても、このような内容であれば、認知症の方から意思能力がなかったことを理由として、遺産分割協議が無効であるという主張がなされることはあまり考えられません。
また、意思能力はあくまでも、意思能力がない人を保護するために要求されるものですので、意思無能力者以外のもの、例えば遺産分割をした他の相続人から無効という主張はできないという考え方が主流です。
イ 公正証書により作成する方法
認知症で、意思能力があるかどうか微妙という状況であれば、遺産分割協議書を公正証書で作成するという方法も考えられます。
公正証書を作成する際には、公証役場の公証人が、意思能力があることを確認するという実務上の対応がとられていることが多いです。各地の公証役場ごとに運用は異なると思いますが、診断書や認知症がどうかを判定するテストの結果、公証人から認知症の方に対する質問への回答結果などを踏まえて意思能力があるかどうかを判断し、あると判断すれば、公正証書を作成するということになるかと思います。
公正証書にしておけば、公証役場という公的な機関が関与して作成したという意味で、後に当事者間でその有効性について争いになる可能性は、公正証書にしなかった場合に比べて低くはなると思います。
また、上記のとおり、意思能力があるかどうかは、締結する遺産分割協議(契約)の内容が簡単なものか、複雑なものかによっても異なってきます。遺産分割協議の内容をできる限り簡単なものにしておくことで、意思能力なしと判断される可能性を低くしておくことはできると考えらえます。
(3)まとめ
認知症という診断がなされている状況であれば、後に意思能力なしとして法的に無効とされるリスクはあります。また、現状で認知症という診断がなされていなくても、診断を受ければ認知症と診断される可能性はあり、その場合も、法的なリスクは残ります。
法的なリスクをできるだけ低くしたいということであれば、まずは、本人に診断を受けてもらい、認知症ではないという診断を得て、遺産分割協議をするのがベストです。
認知症という診断が出ているのであれば、成年後見人を選任するのが最も安全です。
また、上記のように、認知症の方がすべての財産を取得するということであれば、実際に法的な効力が争われる可能性は低いといえますので、成年後見人を付けずに進めるというのも一案です。
意思能力があるかどうかが微妙という状況で、成年後見人をつけずに遺産分割協議を行うということであれば、公証証書により作成しておくことで後に効力が争いになる可能性を低くすることはできますので、こちらもご検討いただければと存じます。
よろしくお願い申し上げます。
どこからか認知症になるのかは、グレーな話だと理解の上での質問です。
相続人に痴呆者(現在。施設入所していて、まったくの痴呆ではなく字は書ける状態にはあるみたいです)
がいたとして、
実務上、手続きの簡略化(遺産分割上の後見人の申請をしない、後見人を一旦たてると、家庭裁判所への
報告がつきまとうなど、この痴呆者は不動産をまま保有しているため、原則、推定相続人である子が後見人に
なれなくて弁護士さんなど専門家が選任される可能性がありコストもかかると認識しています)
のために、他の相続人も理解して、痴呆者を含めて自署と実印を押印した遺産分割書が作成できたとして
被相続人の預金を解約できたとします。
今回の相続が法定相続分の分配なら将来、文句をいう相続人は少ないと思いますが、
仮に法定相続分がなかったとします。
数年後に認知症の人が亡くなった時の相続において、もめなければ、前回の相続のことは過ぎ去りますが、
遺産分割に関してもめた場合に、前回の相続の遺産分割は無効と仮に言われたときは、
何年たっていても、またはその時にその相続人も理解して納得して遺産分割協議書を作成していても
前回の相続の遺産分割は無効になることはあるのでしょうか?
みんなが納得してした行為なので仮に私文書偽証罪になるとしたら全員対象になるのでしょうか?
言い出しっぺの人が対象になるのでしょうか?
認知症の相続人に代わって他の相続人が遺産分割協議書に記名押印するなどの行為は、
私文書偽造として犯罪行為にあたる恐れがあります。くれぐれもこうした行為はしないでください
>前回の相続の遺産分割は無効と仮に言われたときは、
>何年たっていても、またはその時にその相続人も理解して納得して遺産分割協議書を作成し
>ていても前回の相続の遺産分割は無効になることはあるのでしょうか?
そうですね。
おっしゃる通り、無効な法律行為は何年たっても無効です。
ただし、実際のところは、意思能力を欠いた遺産分割
であることを主張するには、
その無効を主張する者が、意思能力がないことを
証明しなくてはなりませんが、
時間の経過とともに、証拠の収集は難しくはなる
ところです。
2 ご質問②~私文書偽造について~
>現在。施設入所していて、まったくの痴呆ではなく字は書ける状態にはあるみたいです
ということなので、勝手に他の相続人が
記名・捺印するのではなく、
あくまでも認知症の疑いがある方が捺印することを
前提として回答します(ご転載いただいたURLは代わって作成したものを
想定していると思います)。
そのような場合でも、意思能力のない者を道具として
利用(内容などの認識なく)して、文書を作成させた
場合は、理論上は、私文書偽造罪に該当しえます
(いわゆる間接正犯というものです。)。
>みんなが納得してした行為なので仮に私文書偽証罪になるとしたら全員対象になるのでしょ
>うか?
>言い出しっぺの人が対象になるのでしょうか?
ここは、それぞれの関与の程度によりますので、
一般論としてはなんとも申し上げられません。
関与の度合いが強ければ、正犯として、
関与の度合いは正犯に比べて弱いが正犯の行為を容易にした
ということであれば、幇助犯として罪が成立することに
なります。
ただし、
>みんなが納得してした行為
ということであれば、実際に立件されるかというと
可能性としては低いとは思います。
よろしくお願い申し上げます。