倒産法 その他

株式会社の破産に伴う代表取締役及び取締役の第二次納税義務について

知人の親が経営している株式会社(人材派遣業)が破産申立てを行い、平成27年
1月に破産手続開始決定を受け、破産管財人が選任された後、平成27年4月に破産
手続廃止決定により破産手続が終了しました。

その後、今月になって当該株式会社の所轄税務署の徴収部門担当者が当時の代表
取締役(知人の親)の自宅(知人と同居)へ国税滞納処分のためということで訪
ねてきました。

徴収部門担当者が持参した「ご連絡」には、以下の記載があります。

『本日は、国税滞納処分のため来訪しました。

株式会社XXXは、平成27年4月9日に破産手続廃止決定となっておりますが、国
税債権は別紙「未納税金目録」の通り、破産による免責がなく、滞納となってお
ります。

そのため、代表者及び役員の現況及び財産状況の確認に加え、法的に滞納処分が
可能な財産の有無、第二次納税義務の追及の可否について調査する必要がありま
すので、お伺いしました。

必ず、担当者までご連絡ください。』

徴収部門担当者が持参した別紙「未納税金目録」には、平成15年年度から平成20
年度までの源泉所得税に係る不納付加算税及び延滞税、平成18年度から平成22年
度までの消費税に係る延滞税、平成22年度の消費税に係る本税として合計約270
万円が記載されています。

なお、破産申立前に知人から聞いた話では、社員にお金を持ち逃げされた(また
は取引先を持っていかれた)ことを契機として資金繰りが厳しくなったことが破
産の原因とのことでしたので、財産隠しを行った可能性は低いと思われます。

また、知人は当該株式会社の非常勤取締役であったものの、勤務薬剤師としての
給与収入によりマンションを購入しており、現在も給与収入があります。

今まで、破産した顧問先(株式会社)の取締役に対して第二次納税義務が問われ
たことはありませんでしたので、以下についてご教示いただければ幸いです。

(1)そもそも破産した株式会社の代表取締役(本件では、知人の親)及び取締
役(本件では、知人)に第二次納税義務が問われるケースがあるのか。あるとす
れば、どのようなケースか。

(2)所轄税務署からは代表取締役(知人の親)、取締役(知人)及び取締役の
配偶者(知人の配偶者)各々の収入状況及び財産状況を知らせろと言われている
ようですが、当該株式会社の経営に全く関与していなかった取締役の配偶者の収
入状況と財産状況まで伝える必要があるのか?

(3)本件の場合、どのように所轄税務署へ対応すればよいのか。

お手数ですが、どうぞ宜しくお願い致します。

1 ご質問、及び、回答の結論
>(1)そもそも破産した株式会社の代表取締役(本件では、知人の親)
>及び取締役(本件では、知人)に第二次納税義務が問われるケースがあるのか。
>あるとすれば、どのようなケースか。
 
 今回の事案であえて可能性があるとすれば、
 ①破産した会社が同族会社で、代表取締役や取締役に対し、法定納期限の1年前以内に、事業譲渡している場合
 ②会社が代表取締役や取締役に対し、法定納期限の1年前以内に、財産を無償で譲渡している場合

 その譲渡を受けた取締役が第二次納税義務を負うことがありえますが、今回の事例では、第二次納税義務を負うということは考え難いかと思われます。

>(2)所轄税務署からは代表取締役(知人の親)、取締役(知人)及び取締役の配偶者(知人の配偶者)
>各々の収入状況及び財産状況を知らせろと言われているようですが、
>当該株式会社の経営に全く関与していなかった取締役の配偶者
>の収入状況と財産状況まで伝える必要があるのか?

 今回の照会の根拠が、①行政指導である場合には、そもそもこれに応じる法的な義務はありません。
また、照会の根拠が②国税徴収法141条に基づく場合、一定の要件(理由を参照)を満たさなければ、回答義務はありません(文書自体を見なければ、何ともいえませんが、おそらくはとりあえずの行政指導かと思われます。)。
 
 一般的に、会社の経営に無関係な取締役の配偶者に、回答義務が認められることは考えにくいです。

>(3)本件の場合、どのように所轄税務署へ対応すればよいのか。

 照会に応じる義務があるか否かの前提として、照会が行政指導なのか、法律に基づくものなのかを問い合わせるべきです。
 その上で、照会を求める具体的な根拠や資料等の提出を求めた上で、回答するか否かを決めるのがよいでしょう。

 相手がどのような根拠を示してくるかにもよりますが、事業譲渡の事実がない旨と、破産手続の中で会社の財産は全て処分されているので、滞納処分が可能な財産はない旨を伝え、取締役が第二次納税義務を負うような事情はないと回答することで事足りるものと考えられます。

2 回答の理由

(1)質問(1)について
 第二次納税義務を負う者の範囲については、国税徴収法33条~41条に種々の類型が定められています。
この中には、会社の取締役だからということのみで、納税義務を負わせる規定はありません。

 本件で該当する可能性があるとすれば、事業を譲り受けた特殊関係者等の責任(国税徴収法38条)又は無償譲受人等の責任です(国税徴収法39条)。

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(事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務)
第三十八条  納税者がその親族その他納税者と特殊な関係のある個人又は同族会社(これに類する法人を含む。)で政令で定めるもの(以下「親族その他の特殊関係者」という。)に事業を譲渡し、かつ、その譲受人が同一とみられる場所において同一又は類似の事業を営んでいる場合において、その納税者が当該事業に係る国税を滞納し、その国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるときは、その譲受人は、譲受財産(取得財産を含む。)を限度として、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う。ただし、その譲渡が滞納に係る国税の法定納期限より一年以上前にされている場合は、この限りでない。
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要件としては
①会社が、特殊な関係のある個人に対して、事業譲渡したこと
②①の事業譲渡が、租税の法定納期限の1年前以内になされたこと
③事業を譲り受けた個人が、同一とみられる場所で、類似の事業を営んでいること
④会社から滞納金額を回収することができないこと
が必要です。

①「特殊な関係のある個人」とは、国税徴収法施行令13条1項に種々の類型が規定されていますが、本件で該当する可能性があるとすれば、13条1項5号の
・会社が、法人税法2条10号にいう同族会社に該当する場合、その判定の基礎となった株主等
 または
・その株主等と親族等にあたる者
です。

 代表取締役であるお父様は、会社の株主でもあるでしょうから、お父様が会社から事業譲渡を受けていた場合には、上記の規定に該当する可能性があります。
 逆に、事業譲渡の事実がないのであれば、この規定に該当することはないものと考えられます。
 先生のメールから判断すると、事業譲渡の事実はないと推測しましたが、いかがでしょうか。

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(無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)
第三十九条
 滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の一年前の日以後に、滞納者がその財産につき行つた政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡・・・、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う。
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要件としては
①会社が、取締役に対し、無償または著しく低い額の対価による財産の譲渡、または、債務の免除を行ったこと
②①の財産処分が、租税の法定納期限の1年以内になされたこと
③会社から滞納金額を回収することができないこと
④会社が滞納金額を支払えないことが、①の財産処分行為に起因していること(財産処分と滞納との因果関係)
が必要です。

 大まかにいえば、会社が取締役に対し財産を無償で譲渡するなどの財産隠しをして、会社が租税ができなくなってしまったような場合、財産の譲渡を受けた取締役から回収することができるようにした規定です。
 上記の条件を満たす場合には、取締役に第二次納税義務が生じることがありえます。

 もっとも、今回のケースでは、財産隠しがあった可能性は低いとのことですし、仮に、財産隠しがあったとすれば、破産手続きの中で破産管財人によって否認されているはずです。
 よって、この規定に該当する可能性は低いものと思われます。

(2)質問(2)
本件における照会は、
①行政指導として行われたもの
または
②国税徴収法141条に基づいて行われたもの
の2つの可能性があります。

①であった場合は、そもそもこれに応じる法的な義務はありません。

②であった場合、以下のような扱いになります。

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(質問及び検査)
第百四十一条  徴収職員は、滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において、次に掲げる者に質問し、又はその者の財産に関する帳簿書類・・・を検査することができる。
一  滞納者
二  滞納者の財産を占有する第三者及びこれを占有していると認めるに足りる相当の理由がある第三者
三  滞納者に対し債権若しくは債務があり、又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者
四  滞納者が株主又は出資者である法人
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上記のとおり、国税徴収法141条2号、3号は、
・会社の財産を占有していると認めるに足りる「相当の理由がある」第三者
・会社から財産を取得したと認めるに足りる「相当の理由がある」者
に対して、質問をし、帳簿書類を提出することを求めることができるとしています。

この「相当の理由がある」場合には、照会に応じる法的な義務があることになります。

「相当の理由」があるか否かは、税務署がどのような資料や情報を把握しているか等の具体的な事情によりますので、一概に結論を出すことはできませんが、一般的に、経営に全く関与していない配偶者が「相当な理由がある」者に該当することは考えにくいと思われます。
 
 ですので、取締役の配偶者には、上記の「相当の理由」がないとして、回答を拒否することも考えられるところかと思います。

(3)質問(3)
まずは、所轄税務署に対しては、調査の根拠が、
①行政指導なのか
②国税徴収法141条に基づくものなのか
を問い合わせるべきです。

 そして、その根拠が、141条に基づくものであった場合には、照会を求める具体的な根拠や資料等の提出を求めるべきです。その上で、照会に応じるか否かの判断をすべきものと考えます。

 相手がどのような根拠を示してくるかにもよりますが、

 おそらく先生のメールからすると、事業譲渡の事実はないでしょうし、

 また、破産手続きの中で、会社の財産は、破産管財人が調べて、換価し、配当しているはずですから、会社の財産はないはずです。また、資産の低額譲渡や財産隠しがあれば、普通は破産管財人が否認してるはずですから、第二次納税義務が生じるような事情もないものと思われます。
 
 よって、所轄税務署に対しては、取締役が第二次納税義務を負うような事情もないので、調査の必要性がなく、財産状況の照会に応じる義務はないという回答で事足りるのではないかと考えられます。

よろしくお願い申し上げます。