民法 会社法

先代社長による契約

前提
・顧問先の代表取締役A、取締役B
・社長Aは2代目社長で、Bは創業者で前代表取締役
・Bは未だに自分が会社のトップであるという認識が強い。

質問
 BがAの許可をとることなく、勝手に取締役会長名で契約を決めてくることがままあり、私の顧問会社とBが勝手に契約を決めて来た会社との契約がどのようになるのか把握しておきたいので教えて下さい。

1 ご質問
【取締役B】が【代表取締役A】の許可をとることなく、勝手に契約を取締役会長名で決めて来た会社との契約がどのようになるのか

Bの代表取締役退任が登記をされている前提で、回答いたします(もし、違えばご指摘下さい。)。

2 回答
(1)結論
 ア 顧問先様から契約の無効を主張したい場合
 →今回の前提ですと、契約が無効であると認められない可能性が高いです。
  対策については、理由をご覧下さい。
  
 イ 契約の相手が契約の無効を主張してきた場合
 →Bの契約締結時から顧問先様は契約を有効とすることができます。 

(2)理由
ア 顧問先様からの契約の無効を主張する場合
 まず、Bは顧問先会社様の代表権をもっていないため、原則としてBが勝手にしてきた契約は無効です。
  
 しかし、会社法は一定の条件のもと、契約の相手を保護する(契約を有効とする)規定を置いています(会社法354条)。
 具体的にいうと、
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 ①Bに会社を代表する権限を有するような名称使用を認めていた
 ②契約の相手方が、Bに代表権限がないことを知らなかった、かつ、知らなかったことに重大な過失がなかった
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 という場合には、契約は相手方を保護するために例外的に有効となるとされています。
 
◯要件①について
 ご質問の前提でいうと、Bは「取締役会長」を名乗っており、これは裁判例上も「代表する権限を有するような名称」にあたるとされています。
 さらに、「名称使用を認めていた」といえる場合として、「黙認」も含まれるとされています。代表取締役Aが、Bが「取締役会長」を名乗っていることを知りながら防止していない状況では、「名称使用を認めていた」と評価されます。  
◯要件②について
 ②については、実際に裁判になると、顧問先様が「取引先の相手がBに代表権限がないことを知っていたこと、又は知らなかったことに重大な過失があったこと」を証明しなければなりません。
 裁判で、知っていたことや知らなかったことに重大な過失があったことを証明するのは容易ではなく、証明できない可能性が高いです。
 以上から、Bが締結してきた契約は、有効なものと扱われてしまう可能性が高いということになります。
 
◯対策
 契約が有効になってしまうというリスクを解消したいという前提があれば、
 ①について、黙認していたと評価されないために、代表取締役AからBに対して、「取締役会長」という名称を名乗らないようにすることやAの許可なく勝手に契約をしてこないように注意し、防止するようにしていたことを証明できる証拠を用意しておきましょう。
 具体的には、書面により警告をして、その写し等を日付入りで保存しておけばよいでしょう。
 

イ 契約の相手が契約の無効を主張してきた場合 
  こちらはあまり想定できませんが、
  この場合には、上記の会社法354条の話をするまでもなく、顧問先様はBの契約締結行為を事後的に認めれば(法律的には「追認」(民法116条)といいます。)、契約締結時から契約は有効であったとすることができます。
   
よろしくお願い申し上げます。