平素より大変お世話になっております。
税理士の●●でございます。
前提条件:
賃貸借契約により、事務所を借りておりますが、
2021年に入ってから既に3回ほど
雨漏り(天井ではなく、フロアの床のタイルカーペットの一部が水で湿る)
が生じております。
賃貸人に再三連絡したところ、
対処には大規模修繕工事を要するため、
修繕はできないという口頭でのお詫びのみとなっております。
建物の防水が出来ていない事になるので、建物の寿命にも影響するはずですが、
そういった危機感が薄いようです。
ご質問事項:
このような場合の現実的な対処として、
下記のようなものが頭に浮かんだのですが、
・行政に通報するなどして適切に修繕を行うよう指導してもらう
・賃料の減額を申し出る
賃貸人側の修繕の義務に関する法律的な根拠がありましたら、
ご教示いただけますと幸いです。
よろしくお願い申し上げます。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>2021年に入ってから既に3回ほど
>雨漏り(天井ではなく、フロアの床のタイルカーペットの一部が水で湿る)
>が生じております。
>このような場合の現実的な対処として、
>下記のようなものが頭に浮かんだのですが、
>・行政に通報するなどして適切に修繕を行うよう指導してもらう
>・賃料の減額を申し出る
>賃貸人側の修繕の義務に関する法律的な根拠がありましたら、
>ご教示いただけますと幸いです。
2 回答
修繕義務を賃貸人側が負う法的な根拠は、
通常契約書にも定められていると思いますので、
そちらをご確認いただき、定めがないという
ことでしたら、民法606条1項が根拠となります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(賃貸人による修繕等)
第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「法的な」対応方法ですが、以下のものが考えられます。
一旦の現実的な方法は、④の交渉かと思います。
(また、行政への通報についても、末尾に記載しています。)
①修繕の強制(修繕しないと罰則があるという意味の強制です。)
裁判をして修繕を行われるものです。
(仮処分といって、迅速に「仮の」命令を
裁判所に出してもらう方法もあります。)
②賃借人自ら修繕して費用を請求する方法
一旦賃借人が工事を行いその金額を
賃貸人に請求する方法です。
現実的には、一時立替えなければならない上、
未回収リスク(工事費用が高いなどの難癖をつけて支払われないリスクを含む)
がありますし、今回の事情からは金額もかなり高額に
なりそうなので現実的ではないように思います。
③賃料の一部支払いの拒絶
裁判例上、修繕義務違反がある場合、
使用収益への影響を考慮して、割合的に
賃料を拒絶できるとするものが複数あります。
ただし、裁判をやれば「割合的」がどの
くらいなのかは明確になりますが、
拒絶額をあまりに大きくしすぎると逆に賃料の不払いを
理由に賃貸借契約を解除されてしまう事例も
ありますので、現時点では④の交渉を優先した方が
良いでしょう。
④賃料の減額請求
判例等(大判昭和13年6月29日、名古屋地裁昭和62年1月30日等)
により、賃借人は、修繕義務違反により、
賃借人の使用収益に支障が生じた程度(割合)
に応じて賃料の減額請求権を取得するとされています。
この権利を行使して、先生のおっしゃるとおり、
賃料を減額することを請求していくという方法があります。
先方が応じない場合には、裁判で「割合」を確定
させる必要がありますが、この権利があることを理由に
賃貸人と交渉していくというのが直近の1つの現実的な
対応かと思います。
ご注意いただきたいのは、最終的に合意する際に、
今後の賃料は●●円とするというだけの合意ですと、
修繕義務の履行をもう求めることができない合意と
解釈される可能性もありますので、以下のような
合意の仕方が良いでしょう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
修繕がなされない期間における賃料は●●●円に減額する。
ただし、賃貸人は、修繕義務を免れるわけではないことに
留意する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
なお、仮に裁判にする場合には、①履行の強制も合わせて
行うべきでしょう。
行政に通報するのも事実上の方法として、ありかと思います。
ただ、行政の場合、本当に動いてくれるかは微妙なところが
あるので、あまりに対応が悪い場合や効を奏さない
場合には、不都合の程度によっては、
裁判所を利用すること等も検討しても良いかもしれません。