不動産 民法 借地借家法

事務所定期借家契約の再契約に関する特約条項について

■前提
会社Aは不動産会社Bとの間で、事務所の定期借家契約(再契約)を締結予定。
再契約にかかる条項が以下のようになっている。
・双方の合意により再契約可能(及びその場合の詳細の取り決めあり)。
・特約条項により、再契約可能である旨の上記条項について、「再契約は
出来ないことを確認する」と読み替える。

しかし、不動産会社Bからは、実務上、合意による再契約はあり得る旨の
口頭説明を受けている。会社Aに対してきちんと説明し納得してもらった
ことを示すために、あえて特約条項を設定したとのこと。

■ご質問
会社Aは、定期借家契約とはどういうものであるか自体についての理解は
あります。ただし、あえて特約条項を盛り込んだ趣旨が分からず、何か
罠があるのではないかと不安になっております。私個人的にも、この特約
条項はあってもなくても同じように思うのですが、注意すべき点や不動産
会社Bに確認しておくべき事項などはございますでしょうか?

お手数おかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

1 ご質問及び回答の結論

>会社Aは、定期借家契約とはどういうものであるか自体についての理解は
>あります。ただし、あえて特約条項を盛り込んだ趣旨が分からず、何か
>罠があるのではないかと不安になっております。私個人的にも、この特約
>条項はあってもなくても同じように思うのですが、注意すべき点や不動産
>会社Bに確認しておくべき事項などはございますでしょうか?

 ご質問のケースで、「再契約は出来ないことを確認する」という特約条項がないと、再契約を前提とした契約で、定期借家契約ではなく、通常の借家契約であると認定されてしまうリスクがあります。不動産会社としては、通常の借家契約ではなく定期借家契約である旨を確定させたいという意図があるかと思います。
 なお、このような特約があっても、法的に再契約が禁止されるわけではなく、再契約の交渉時に、不動産会社が合意してくれれば再契約可能です。
 A社としては、再契約の交渉時に、不動産会社が合意してくれなければ退去せざるを得ないというリスクがある点(定期借家契約であること)を理解されているのであれば、契約をしても特に問題はないかと存じます。

2 回答の理由
(1)定期借家契約の要件
 定期借家契約では、自動更新のない契約で、期間満了時に確定的に終了します。
 定期借家契約が成立するためには、契約の更新がないことを、借主にしっかりと説明しなければなりません(借地借家法38条2項)。

(2)定期借家契約の再契約について
 定期借家契約は、更新はないため期間満了時に終了しますが、再契約をすることは禁止されていません。ですので、契約が終了する前に、お互いが新たに再契約をすることを合意すれば、再契約は可能です。
 ただし、契約締結の当初から、再契約が当然になされることが前提とされていた場合には、実質的には契約の更新がなされるのと変わらないので、定期借家契約の要件を満たさないとされる可能性が一定程度あります。
 定期借家契約の要件を満たさなければ、通常の借家契約とみなされます。そうすると、契約の自動更新がなされ、貸主側に不利になります(通常の借家契約となることで、借主側に不利になることは特にありません。)。

(3)不動産会社が特約を入れた意図
 上記のとおり、契約当初から再契約がなされることを前提としている場合には、定期借家契約ではない(要件を満たさない)という認定がなされるおそれがあります。そうすると、通常の借家契約と解釈されることになりえます。
 そこで、不動産会社としては、再契約はできないことを確認するという特約を入れて、再契約を前提としない契約であることを説明したことを証拠として残しておきたいという意図なのではないかと推測されます。弁護士等からより法的リスクを減らすためにアドバイスを受けたのかもしれません。

 つまり、不動産会社としては、定期借家契約の要件を満たすように契約書を整え、通常の借家契約と認定されないようにしておくという意図で特約を入れているのではないかと思われます。

(4)A社にとってあり得るリスク
 当然ですが、定期借家契約となると、契約の更新はなく期間満了時に終了します。
 また、再契約は、お互いが合意しなければ成立しませんので、相手が拒否すれば、これを強制することはできません。あくまで、再契約ができるかどうかは、再契約の交渉をするときの不動産会社の態度に左右されるという点はご注意ください。
 なお、特約で、「再契約は出来ないことを確認する」とされていたとしても、法的に再契約が禁止されるわけではなく、再契約の交渉時に、不動産会社が合意してくれれば再契約可能です。
 A社のリスクとしては、不動産会社が期間満了時に再契約に応じなければ、出て行かざるを得ないという点です。再契約は保証されていません。
 この点をしっかりとご了承いただいているのであれば、契約をしても問題はないかと存じます。

 よろしくお願い申し上げます。