個人的には、このような契約は一律贈与と整理されると考えています。というのも、売買契約は有償かつ双務契約とされているからです。
① 可能である場合
無償であった場合にも売買と同様の担保責任などを売主は負うことに
なりますか?
② 不可能である場合
1円とか名目的な対価の売買契約でも、売買として取り扱われることになりますか?
最終的には事実認定の問題になると考えておりますが、贈与か売買で、所得税などの課税関係に大きな影響がありますので、お尋ねしております。
よろしくお願いいたします。
>民法に関する質問ですが、無償で売買する、という売買契約は可能でしょうか?
>個人的には、このような契約は一律贈与と整理されると考えています。というのも、売買契約は有償かつ双務契約とされているからです。
先生のご指摘のとおり、無償での売買契約というものは存在しません。
売買契約の要件は、
①契約当事者の一方が財産権を移転し、
②これに対して他方がその対価(代金)を金銭で支払う
ことを約束することです。
「無償で」ということになると、②の要件を満たしませんので、そもそも売買契約は成立しません。「無償での売買契約」というものは存在しないということになります。
つまり、「無償で」財産権を移転させる契約は、贈与契約と認定されます。
2 ご質問(2)~無償の場合の担保責任~
>① 可能である場合
>無償であった場合にも売買と同様の担保責任などを売主は負うことに
>なりますか?
無償である場合には、売買ではなく、贈与契約となり、原則として担保責任を負うことはありません。
ただし、贈与者が、贈与する物に瑕疵(欠陥)があることを知っていながら、受贈者にこれを告げなかった場合には、担保責任を負うものとされています(民法551条1項)。
3 ご質問(3)~対価が低額な場合の契約の種類~
>② 不可能である場合
>1円とか名目的な対価の売買契約でも、売買として取り扱われることになりますか?
対価が1円であったとしても、当事者の認識を含めた事実認定になりますが、対価性の要件を充足しており、売買契約と認定される可能性が高いです。
ただし、この場合、民法上「負担付贈与」(民法553条)であるとの認定がなされる可能性もあります(1円でも対価がある以上、無償とは言えず単純な「贈与」にはなりません。)。
「負担付贈与」とは、受贈者(贈与を受ける人)に、何らかの給付をするべき債務を負担させる贈与契約です。たとえば、一例として、土地を贈与するかわりに、その土地の一部を利用して野菜を育てたいので、土地の一部を使用させるという債務を、受贈者に負担させる契約が考えられます。
また、土地を贈与するかわりに、受贈者がわずかな金銭を支払うという契約でも、当事者が売買をしたのではなく、贈与に多少の負担を伴うものだと認識しているときは、その契約は負担付贈与であると認定した判例もあります。
ですので、1円の対価で財産権を移転させる契約は、売買契約ではなく、負担付贈与契約と認定される可能性もあります。
売買か負担付贈与かは、最終的には、当事者の認識も含めた事実認定の問題になります。
なお、釈迦に説法ですが、たとえ売買契約であったとしても、1円で売買が行われた場合には、低額譲渡の規定(相続税法7条)、みなし譲渡所得課税(所得税法59条)、課税繰延規定(所得税法60条)などで調整される可能性があるので、税法上は、売買か贈与かという点のみで、一律に線引きがなされるものではない点は、ご留意ください。
よろしくお願い申し上げます。