不動産 会社法

取締役の利益相反取引の損害賠償の請求者

永吉先生

いつもお世話になりありがとうございます。
●●と申します。

基本的なところかと思いますが、取締役の
利益相反取引について質問をさせてください。

(前提)
○ 法人Aの取締役は3名、甲(社長)、乙(専務)、丙(常務)
○ 法人Aの株主甲60%(社長)、丁40%(第三者)
○ 法人Aは取締役会設置会社
○ 取締役甲の所有土地(時価3千万円)を法人Aに5千万円で
売却するとします。2千万会社が損をする。
○ 利益相反取引に該当するため、取締役会により乙と丙の
承認決議を行います。

(質問)
○ 利益相反取引に該当する場合は取締役会の承認決議が必要と
思われますが、会社に損害が発生した場合は、乙と丙にて
取締役会の承認決議を行っていたとしても、任務を怠ったとして
損害賠償がされると考えていますが、損害賠償をする対象者は
株主だけに負うのでしょうか。

そうすると、訴えられた場合は、丁だけに損害賠償をすることになる
という考えになりますか。

また、例えば株主が甲(社長)60%、乙(専務)40%の場合は、会社に
損害が発生しても乙と丙が承認している場合、訴える人がいないので、
結果として会社法上は問題ない取引となるのでしょうか。

利益相反による損害賠償は、例えば法人Aの債権者(仕入先など)から
訴えられることも想定されるのでしょうか。

(質問2)
○ 漠然とした質問となり恐れ入りますが、他に利益相反取引について
一般的に注意する留意点などはございますでしょうか。

例えは、取締役1名、100%株式を保有している会社は実質的に問題がないとか?
→ 間違っていたらすみません。

基本的なところで恐れ入りますが
宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜取締役との利益相反取引と損害賠償責任について〜

(1)株主含む会社内部の問題

>利益相反取引に該当する場合は取締役会の承認決議が必要と
>思われますが、会社に損害が発生した場合は、乙と丙にて
>取締役会の承認決議を行っていたとしても、任務を怠ったとして
>損害賠償がされると考えていますが、損害賠償をする対象者は
>株主だけに負うのでしょうか。
>そうすると、訴えられた場合は、丁だけに損害賠償をすることになる
>という考えになりますか。

この場合、取締役の責任としては、会社への忠実義務(会社法355条)
違反ということになりますので、一次的には、会社に対して、責任を負う
こととなります(会社法423条1項)。

ですので、株主丁に対してというよりは、株主や監査役等が
会社を代表して、甲に損害賠償請求をすることになります。
つまり、法人Aに損害分のキャッシュを戻せということです
(承認があれば取引自体は無効にはならない)。

この場合、利益相反取引承認の取締役会決議に
賛成したその他の取締役も任務を怠ったものと
推定されますので、過失がなかったと立証できない限り連帯して
損害賠償責任を負うこととなります(会社法423条3項3号)。

また、取締役会設置ということで監査役もいるでしょうから、
状況(その金額で取得することがその他の事情からも合理性がない等)
次第では、責任を負うものと思われます。

(2)債権者との関係

>また、例えば株主が甲(社長)60%、乙(専務)40%の場合は、会社に
>損害が発生しても乙と丙が承認している場合、訴える人がいないので、
>結果として会社法上は問題ない取引となるのでしょうか。
>利益相反による損害賠償は、例えば法人Aの債権者(仕入先など)から
>訴えられることも想定されるのでしょうか。

そうですね。会社法429条1項により、
第三者から役員に対する損害賠償請求も認められています。

この場合、「故意または重過失」が必要ですが、
その他合理的な理由がないにも関わらず、時価よりも
明らかに高い金額で売却ということになれば、
認められる可能性も高いでしょう。

ただ、債権者等であれば、支払いがなされない場合に初めて
「損害」が生じるので、上記行為により、支払いが得られなった
と評価できる場合になります。

(あとはケースによっては詐害行為取消権を行使される等も
ありますが、ご質問の趣旨とはずれると思いますので、
ここでは詳細は割愛します。)

2 ご質問②〜その他について~

>漠然とした質問となり恐れ入りますが、他に利益相反取引について
>一般的に注意する留意点などはございますでしょうか。
>例えは、取締役1名、100%株式を保有している会社は実質的に問題がないとか?
>→ 間違っていたらすみません。

そうですね。ご指摘の例では、会社内部の問題であれば、
特に問題はないでしょう。

ただし、会社の財務状況にもよりますが、
適正対価と大きく異なる取引をして、債権者に損害が
でるようなケースでは、上記①と同様に注意が必要です。

よろしくお願い申し上げます。