相続 遺言 不動産

建物が父と子の共有の自宅不動産と配偶者居住権

永吉先生、お世話になります。

私が遺言の作成で関与することになったお客様があります。

来年の4月になったら、
配偶者居住権を定めた遺言書を作成することがお客様の希望です。

ただし、自宅建物が父と子の共有になっており、
親子は同居しています。

土地は父の所有です。

この場合、改正民法1028条のただし書きでは
「ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。」
と記載があるので、自宅建物が父と子の共有である場合は、
配偶者居住権の設定そのものができないのでしょうか?

よろしくお願い致します。

以下、補足です。

本件の補足も兼ねますが、そうではない一般的なケースも含めてです。

配偶者居住権の設定を遺言でする場合、
遺言書には配偶者居住権に関しては「遺贈する」と書かなければなりません。

一方で不動産には関して一般的に「相続させる」と書くので、
子:相続させる
妻:遺贈する
と書くことになるかと思います。

この場合、配偶者居住権は「遺贈する」となっているので、
単独での登記は不可で、相続人全員の印鑑が登記に必要となるのでしょうか?

よろしくお願い致します。

●●先生

ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

補足も含めていただいた2つのご投稿に
ついて回答します。

1 ご質問①〜居住建物の共有について〜

>改正民法1028条のただし書きでは
>「ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっ
>ては、この限りでない。」
>と記載があるので、自宅建物が父と子の共有である場合は、
>配偶者居住権の設定そのものができないのでしょうか?

ご理解のとおりです。
ただし、遺言を残した後でも、
相続開始時までに子の持分を父又は母に移転して
いれば、その遺贈による配偶者居住権は有効なもの
とはいえるでしょう。

2 ご質問②〜登記申請について〜

>この場合、配偶者居住権は「遺贈する」となっているので、
>単独での登記は不可で、相続人全員の印鑑が登記に必要となるのでしょうか?

配偶者居住権の設定登記は、
任意手続きで行う場合には、
配偶者と建物所有者(遺言等で当該建物を誰かに単独で
取得させるケースでは、その取得者のみでよく、
相続人全員というわけではありません。)
との共同申請によることとなります。

仮にこれに応じない場合には、
居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対して、
長期配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う(改正民法1031条1項)
とされていますので、

登記義務の履行を求める裁判を行い
その裁判が確定すると建物所有者の登記申請の
意思表示が擬制されるため(民執法174条1項本文)
単独で登記が可能となります。

仮に、第三者に売却されるおそれが強いという
ケースでは、上記の裁判を行う前に、
裁判所に処分禁止の仮処分の申立て
(裁判より簡易・迅速な手続)を行い、
建物所有者が、第三者に対して、建物を売却することを
防止しておくことや仮登記申請を検討すること
となるでしょう。

よろしくお願い申し上げます。