いつもお世話になっております。
以下の相続における相続税申告についてご教示をお願いいたします。
被相続人:甲
被相続人の配偶者:乙
被相続人の第一子:丙
被相続人の第二子:丁
相続人は乙、丙及び丁のみである。なお、乙の推定相続人は丙及び丁のみである。
前提
1.甲の相続において相続税申告義務及び相続税納付義務が発生します。
2.乙は認知症により意思能力が無い状態ですが、乙の固有財産が多額であることに加え、乙の二次相続もさほど遠くない状況です。
3.丙及び丁とも、乙を成年被後見人とする成年後見人の選任を行ってまで、甲の相続財産に対して遺産分割協議を行う必要性を感じていません。
4.甲の相続(一次相続)を未分割のまま、「申告期限後3年以内の分割見込書」とともに相続税申告書を提出し、乙の相続(二次相続)時に数次相続として、丙及び丁で遺産分割協議を行い、甲の相続財産を丙及び丁のみで取得したいと考えています。
5.一次相続を未分割にする際、乙にも相続税納付義務が発生します。
質問事項
1.甲の相続財産を未分割のまま、一次相続の相続税申告を行う場合、丙及び丁の了解のもと、認知症である乙の相続税申告書を提出する場合、乙以外の相続人(丙及び丁)及び相続税申告書を提出した税理士に対してどのようなリスクが発生することが考えられるか?
2.甲の相続財産を未分割のまま、一次相続の相続税申告を行った後、一次相続の申告期限後3年以内に二次相続が発生した場合、数次相続により丙が取得した甲の相続財産の一部(駐車場用地)に対して小規模宅地等の特例を適用し、更正の請求を行うことに対して、税務上の問題点はあるか?
3.乙の二次相続までの期間が想定よりも長くなった場合、甲の相続財産を未分割のままとしておくことに対して、どのような問題が発生し得るのか?
4.遺産分割協議を行わず、甲の相続を法定相続により乙、丙及び丁で相続する場合、質問事項1及び2に対する回答は異なるのか?
どうぞよろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜認知症である者の申告書を提出する税理士のリスク
>1.甲の相続財産を未分割のまま、一次相続の相続税申告を行う場合、丙及び
>丁の了解のもと、認知症である乙の相続税申告書を提出する場合、乙以外の相
>続人(丙及び丁)及び相続税申告書を提出した税理士に対してどのようなリス
>クが発生することが考えられるか?
実務上は、いただいた前提であれば問題になることは
あまりないかとは思いますが、認知症で乙に意思能力がない場合、
そもそも税理士の先生への申告書の作成及び提出の依頼自体が
無効とされます。
それに伴い厳密には、申告書の提出も税理士の先生の無権代理行為であり、
無効となることとなります。
ただ、税務署側から意思能力を理由に申告書の無効を主張してくるか
というと、私自身は見たことがありませんし、納税しているという
ことであれば、特段問題となる可能性は低いようには思います。
なお、法律上は意思能力がなければ、すべての法律行為は無効
ですので、成年後見人を付けないことを推奨できるわけでは
ありませんが。
2 ご質問②〜小規模宅地等の特例の適用について
>2.甲の相続財産を未分割のまま、一次相続の相続税申告を行った後、一次相
>続の申告期限後3年以内に二次相続が発生した場合、数次相続により丙が取得
>した甲の相続財産の一部(駐車場用地)に対して小規模宅地等の特例を適用
>し、更正の請求を行うことに対して、税務上の問題点はあるか?
分割見込書の提出を前提であれば、
他の要件が充足されているのであれば、特段問題はないでしょう。
3 ご質問③〜期間が想定よりも長くなった場合
>3.乙の二次相続までの期間が想定よりも長くなった場合、甲の相続財産を未
>分割のままとしておくことに対して、どのような問題が発生し得るのか?
3年が経過する場合には、ご質問②の特例の適用などはできなくなりますね。
この場合、更正の請求を行いたいのであれば、
「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」
を提出し、承認を受ける必要がありますが、
本来、認知症の場合は、親族が後見人を選任して、遺産分割を
するというのが本筋ですので、認知症により分割ができない
というのは、「やむを得ない事由」に該当しません。
4 ご質問④〜その他
>4.遺産分割協議を行わず、甲の相続を法定相続により乙、丙及び丁で相続す>る場合、質問事項1及び2に対する回答は異なるのか?
すみません。趣旨としては、
乙死亡後も、丙・丁で甲の相続に関して、遺産分割しない
ということでよかったでしょうか。
理論上、1は、異なりませんが、2は小規模宅地の特例の適用はできません
(未分割なので)。
なお、乙の相続については、遺産分割をし、甲の相続では遺産分割
しないという前提ですと、
乙の相続における乙の甲の相続持分は、未分割ということにするという
ご想定なのでしょうか。
とすると、乙の相続財産についても一部未分割とする想定
ということでしょうか。実務上あまりそのような乙の相続における
遺産分割は想定できませんでしたので、ご質問の趣旨と異なる
可能性がございますが、ご了承ください。
よろしくお願い申し上げます。
いつもお世話になっております。早速ご回答いただき、ありがとうございます。
> そもそも税理士の先生への申告書の作成及び提出の依頼自体が
> 無効とされます。
> それに伴い厳密には、申告書の提出も税理士の先生の無権代理行為であり、
> 無効となることとなります。
>
> ただ、税務署側から意思能力を理由に申告書の無効を主張してくるか
> というと、私自身は見たことがありませんし、納税しているという
> ことであれば、特段問題となる可能性は低いようには思います。
>
> なお、法律上は意思能力がなければ、すべての法律行為は無効
> ですので、成年後見人を付けないことを推奨できるわけでは
> ありませんが。
ありがとうございます。永吉先生のニュアンスは理解いたしました。
> 分割見込書の提出を前提であれば、
> 他の要件が充足されているのであれば、特段問題はないでしょう。
はい、分割見込書の提出が前提ですので、了解いたしました。
> 3年が経過する場合には、ご質問②の特例の適用などはできなくなりますね。
>
> この場合、更正の請求を行いたいのであれば、
> 「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」
> を提出し、承認を受ける必要がありますが、
>
> 本来、認知症の場合は、親族が後見人を選任して、遺産分割を
> するというのが本筋ですので、認知症により分割ができない
> というのは、「やむを得ない事由」に該当しません。
ありがとうございます。
小規模宅地の特例は適用できないという前提でお客様へ説明しております。
> 4 ご質問④〜その他
>
> >4.遺産分割協議を行わず、甲の相続を法定相続により乙、丙及び丁で相続す>る
> >場合、質問事項1及び2に対する回答は異なるのか?
>
>
> すみません。趣旨としては、
> 乙死亡後も、丙・丁で甲の相続に関して、遺産分割しない
> ということでよかったでしょうか。
>
> 理論上、1は、異なりませんが、2は小規模宅地の特例の適用はできません
> (未分割なので)。
>
> なお、乙の相続については、遺産分割をし、甲の相続では遺産分割
> しないという前提ですと、
> 乙の相続における乙の甲の相続持分は、未分割ということにするという
> ご想定なのでしょうか。
>
> とすると、乙の相続財産についても一部未分割とする想定
> ということでしょうか。実務上あまりそのような乙の相続における
> 遺産分割は想定できませんでしたので、ご質問の趣旨と異なる
> 可能性がございますが、ご了承ください。
質問の前提は、甲の相続財産を法定相続割合(乙:2分の1、丙及び丁:各4分の1)で相続し、二次相続において、乙が相続した甲の相続財産(甲の相続財産の2分の1)及び乙の固有財産を丙及び丁で遺産分割を行うというものです。
自分で質問をしておきながら恐縮ですが、遺産分割を行わずに法定相続により不動産登記を行う手続きと同様に、遺産分割を行わずに甲のすべての相続財産(不動産以外も含む)を法定相続割合(乙:2分の1、丙及び丁:各4分の1)で相続するということがそもそも可能なのでしょうか?
どうぞよろしくお願いいたします。
追加でのご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>自分で質問をしておきながら恐縮ですが、
>遺産分割を行わずに法定相続により不動産登記を行う手続きと同様に、
>遺産分割を行わずに甲のすべての相続財産(不動産以外も含む)を
>法定相続割合(乙:2分の1、丙及び丁:各4分の1)で相続するということが
>そもそも可能なのでしょうか?
2 回答
まず、前提として、遺産分割を経てない共有と通常の共有は異なります。
前者は、いわゆる遺産共有と呼ばれるものです。
少しややこしくなりますが、
遺産分割を経ていない相続分はあくまでも、具体的な個別財産に対するものではなく、
遺産分割前の財産の総体に対する相続分であるということになります。
(個別財産に対して、どのような持分(単独所有含む)を有するかを確定するのが、遺産分割です。)
結果的には、相続財産の総体への持分なので、個別財産にも
遺産共有という意味で共有を観念するため、文章で説明するとややこしいのですが。
乙の甲の相続に対する相続分(ここでは、
相続人の地位と言った方が分かりやすいかもしれません)は、
乙の死亡で、丙及び丁に相続されます。
理論上は、一部分割が認められる以上、
乙の相続に際して、乙の甲の相続に対する相続分相続分を除外して、
残りの乙の財産を分割することは可能ということとなります。
ただし、これはあくまでも、甲の個別の相続財産に対する
持分が乙:2分の1、丙及び丁:各4分の1に確定しているわけではなく、
総体的な相続財産に対して、相続分があるということになります。
(最終的に、裁判所が遺産分割を確定される場合には、この相続分を
前提に、裁判所が個々の財産の分配を決定することになります。)
よろしくお願い申し上げます。
いつもお世話になっております。
だいぶ前のご回答に対する追加質問で申し訳ございませんが、ご教示いただければ幸いです。
> 乙の甲の相続に対する相続分(ここでは、
> 相続人の地位と言った方が分かりやすいかもしれません)は、
> 乙の死亡で、丙及び丁に相続されます。
>
> 理論上は、一部分割が認められる以上、
> 乙の相続に際して、乙の甲の相続に対する相続分相続分を除外して、
> 残りの乙の財産を分割することは可能ということとなります。
>
> ただし、これはあくまでも、甲の個別の相続財産に対する
> 持分が乙:2分の1、丙及び丁:各4分の1に確定しているわけではなく、
> 総体的な相続財産に対して、相続分があるということになります。
> (最終的に、裁判所が遺産分割を確定される場合には、この相続分を
> 前提に、裁判所が個々の財産の分配を決定することになります。)
乙の甲の相続に対する相続分(相続人の地位)が乙の死亡で、丙及び丁に相続されることは理解しました。
> ただし、これはあくまでも、甲の個別の相続財産に対する
> 持分が乙:2分の1、丙及び丁:各4分の1に確定しているわけではなく、
> 総体的な相続財産に対して、相続分があるということになります。
> (最終的に、裁判所が遺産分割を確定される場合には、この相続分を
> 前提に、裁判所が個々の財産の分配を決定することになります。)
乙の相続に際して、乙の甲の相続に対する相続分も丙及び丁で分割を行う予定です。
この場合、乙の相続開始時点において、甲の個別の相続財産に対する持分が乙:2分の1、丙及び丁:各4分の1に確定しているわけではないため、丙及び丁は甲の個別の相続財産(丙及び丁各々が有する4分の1及び乙の2分の1)に対する持分を確定するための遺産分割協議(のようなもの?)を行うということになるのでしょうか?
どうぞよろしくお願いいたします。
追加でのご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>乙の相続に際して、乙の甲の相続に対する相続分も丙及び丁で分割を行う予定です。
>この場合、乙の相続開始時点において、甲の個別の相続財産に対する持分が
>乙:2分の1、丙及び丁:各4分の1に確定しているわけではないため、
>丙及び丁は甲の個別の相続財産(丙及び丁各々が有する4分の1及び乙の2分の1
>)に対する持分を確定するための遺産分割協議(のようなもの?)を行うというこ
>とになるのでしょうか?
>どうぞよろしくお願いいたします。
2 回答
そうですね。これがまさに、乙の甲の相続分(相続人の地位)のみ
ならず、個別財産の帰属まで確定させる甲の相続の遺産分割を丙及び丁
で行うのかという問題です。
乙の死亡により、甲の相続に関する相続人(遺産分割参加者)は、
丙及び丁となりますので、丙及び丁で甲の相続に関する遺産分割
を行うことができますので、遺産分割をするのかどうかです。
つまり、甲の相続財産について遺産共有のままとするのか、
それとも、丙及び丁で遺産分割をして、通常の共有ないしそれぞれの
財産の単独所有とするのかという問題です。
仮に形式的には乙の相続に関する遺産分割協議書であった
としても、甲の相続財産の個別の帰属を確定させる合意をすれば、法律上は、
乙の相続に関する遺産分割及び甲の相続に関する遺産分割
がなされたものと評価されるでしょう。
(通常は2つの遺産分割協議書を作りますが)
このご質問関連の最初のご質問④に対する
「乙死亡後も、丙・丁で甲の相続に関して遺産分割しないということでよろしかったでしょうか。」
「実務上は〜あまり想定できませんでしたので〜」
というのは、まさに乙死亡後も丙・丁で甲の相続に関して遺産分割
をしないのか?という意味あいです。
2回目の追加のご質問への回答は、「遺産分割を行わずに〜法定相続割合」
ということで、
あえて甲の相続財産を分割しない(遺産共有)のまま乙の相続の
遺産分割が可能かというご質問に答えたものとなります。
よろしくお願い申し上げます。