(前提)
1.A社は甲からの借入金800万円を有している。
2.この借入金の状態は自然債務であり、そのことについては平成28年11月にお互い
に確認済みである。
3.A社は上記の借入金(自然債務)について時効が成立したら債務免除益を認識し、
その自然債務である借入金を帳簿上消滅させたいと考えている。
(質問等)
1.上記の借入金(自然債務)の時効が成立した後にその借入金を法的に消滅されるた
めの手続きについて、手順や必要書類などに関することをお教えください。
2.上記債務の時効成立時期に関することについてお教えください。
3.上記前提3について、もし時効成立前おいてやっておくべきことなどなにか必要
なことがある場合には、そのことについてもお教えください。
質問内容等は以上でございます。
よろしくお願い致します。
>1.A社は甲からの借入金800万円を有している。
>2.この借入金の状態は自然債務であり、そのことについては平成28年11月にお互い
>に確認済みである。
>3.A社は上記の借入金(自然債務)について時効が成立したら債務免除益を認識し、
>その自然債務である借入金を帳簿上消滅させたいと考えている。
2 ご質問の前提についての回答
借入金の状態が「自然債務」ということで、
どのような経緯で自然債務とされたのか
という詳細はわかりかねますが、
本当に自然債務となっている場合、
債務免除益の認識自体は、
通常の債務→自然債務
に転化された時点で行うことになると思われます。
(今後、時効により債務免除益を立てるのは期ずれです。)
例えば、
自然債務となり、その後任意に支払いがあった
場合に、自然債務へ転化時点での債務免除益
について、更正の請求が認められるか
が争われた事例(仙台高等裁判所平成18年7月14日)
にはなりますが、
その前提として、
「自然債務は債務の履行が
法律以外の社会規範による債務者の自発的な
意思に委ねられている債務であって,
債権者は強制履行の手段をとりえない債務である。
したがって,弁済しなくても債務者には何ら法的不利益を生じないため,
金額的にも時期的にも弁済されることの裏付けがなく,
いかなる意味でもその支払が担保されていないものであるから
・・・省略・・・
その経済的価値は無いに等しいというべきであって,
強制執行可能な通常の債務が自然債務に転化すれば,
その時点で債権者の経済的利益は失われた,
これを債務者からみれば,対応する経済的利益を得たとみるのが相当である。
・・・省略・・・
確かに,自然債務も債務が消滅するわけではなく,
債務者が弁済すれば,非債弁済にはならないから,
債務者はその返還を請求できない関係にあり,
この場合,債務者は自然債務となった時点で得た経済的利益を
その限度で失うことになるけれども,これは弁済行為によって
生じた結果であって,自然債務となっても経済的利益が生じていなかった
ことの現れとみるべきではない。」
と判示しています。
なお、この仙台高裁の裁判例は、最高裁不受理で確定しています。
判示自体、税法・民法(自然債務の性質論)の視点からも妥当なものと考えられます。
(その他、古いものですと大阪地裁昭和40年7月27日等もあります。)
よろしくお願い申し上げます。
追加の質問をさせていただきますのでお願い致します。
これはあえて述べおくようなことではないかもしれませんが、甲は以前A社の
代表取締役であり、当事務所の顧問先B社がA社を買い取った際に甲はA社の
代表取締役及び取締役を辞任し、B社の当時の代表取締役がA社の代表取締役
に就任し、A社とB社は兄弟会社という関係であります。
A社が当事務所の顧問先となったのは上記買取がなされた後であり、その際、
下記の甲からの借入金が自然債務ということは知らされておりませんで、経
緯についてもA社及びB社の代表取締役が当時とは別の方となっていること
もあり詳細についてはわからないのですが、上記の買い取りの際あるいはそ
の後に契約で自然債務としたのではということのようであります。
いずれにせよ、期ずれになるということはしかたがないことではありますが、
その借入金をA社から消すにあたって甲となにか交渉中とのことがA社から
の質問内容に書いてありました。
余談的なものが長くなりましたが本題に入らせていただきます。
1.A社としては(期ずれではありますが)その借入金について債務免除益を認識
することに関して、甲とどのような書面を交わせばよいかということなどに
ついて非常に気にかけています。
2.私見としては自然債務であるならば、その借入金については債務免除益を認
識するのでその後においては返済するということはありませんという旨を記
載した文書を甲に郵送する程度でよいのではと考えますがいかかでしょうか。
また、何か文書を郵送するならば内容証明郵便としておいたほうがよいで
しょうか。
3.そもそも通常の債務を契約で自然債務とすることは法律上可能なことなので
しょうか。
上記の追加質問に関してしてご教示・ご指摘等をいただきたく思いますのでよろ
しくお願い致します。
前後しますが、ご了承ください。
1 ご質問①~合意による自然債務の作成について~
>そもそも通常の債務を契約で自然債務とすることは法律上可能なことなので
>しょうか。
学術上の議論は割愛しますが、
裁判所の中では、合意による自然債務
についても当事者が主張するなら認める
という前提で動いています
(法務的には単純な債務免除と
あまり変わらないので、認める認めない
の議論もあまり実益がないからでしょう。)。
2 ご質問②~自然債務の債務免除益の認識について~
>A社としては(期ずれではありますが)その借入金について債務免除益を認識
>することに関して、甲とどのような書面を交わせばよいかということなどに
>ついて非常に気にかけています。
>私見としては自然債務であるならば、その借入金については債務免除益を認
>識するのでその後においては返済するということはありませんという旨を記
>載した文書を甲に郵送する程度でよいのではと考えますがいかかでしょうか。
>また、何か文書を郵送するならば内容証明郵便としておいたほうがよいで
>しょうか。
まず、前提として、自然債務だということが
既に確定できるのであれば、債務免除益の認識に
ついて、A社から甲に対して、これから
何かの手続をする必要がそもそもありません。
自然債務とする合意があった時点で、甲は
A社に対して、貸金の返済などの請求はできません。
帳簿上もその時点に消すべきだったものがA社の
会計処理上残っているだけです。
>上記の買い取りの際あるいはそ
>の後に契約で自然債務としたのではということのようであります。
むしろ、本当に自然債務となっているのか
(証拠があるのか含む)
を確認することが先決だと思います。
おそらく自然債務であるということでしたら、
買取の際などの契約書に記載があると
思いますので、契約書や合意書などの
証拠資料をご確認ください。
そこで、自然債務であるという
ことであれば、上記の通り、
A社から甲に対して行う必要が
ある行為はありませんし、
帳簿上借入金を消すことは
A社が単独で行えば良いです。
仮に、証拠がないということですと、
甲が納得すれば、これから
自然債務になるA社と甲間で、
合意書を作成することになると思います。
その際に、今期付で契約書を作成し、
>上記の買い取りの際あるいはそ
>の後に契約で自然債務としたのではということのようであります。
この時点の証拠がないという
ことでしたら、
今期に債務免除益の認識をするということでも、
おかしなことではないでしょう。
3 まとめ
①既に自然債務になっている証拠がある
→A社は甲に対して、何もする必要はありません。
②自然債務になっているのかよくわからない
→甲とA社で改めて自然債務となっている合意書を
締結する
なお、甲が協力してくれそうもないという
ことでしたら、そのまま時効になるまで
放置するという方法もあるかと思います。
>この借入金の状態は自然債務であり、そのことについては平成28年11月にお互い
>に確認済みである。
ということですと証拠があるとは思いますが、
仮に自然債務となった部分の証拠がないということですと、
時効期間が「更新」されている可能性が高いので、
この確認時から5年と考えて良いでしょう。
よろしくお願い申し上げます。