お世話になっております。
税理士の●●です。
【前提】
① 令和3年4月中旬に開業予定の個人経営クリニックです(医師2名)
② 採用予定のスタッフと、雇用契約を1月に結んでいます。
③ 雇用契約締結後、開業準備を進めていく段階で、看護師長となるスタッフの
医院長、副院長に対しての態度が悪く、また看護師長としての資質に問題が
あることが多々発覚したため、今後の雇用についてのご相談です。
【相談】
① 看護師長候補ということで、基本給、管理職手当を提示して雇用契約を結んでい
ますが、 基本給、管理職手当の金額を下げることは可能でしょうか。
この際、再契約ということで、もう一度契約の取りかわしが必要でしょうか。
② この看護師長との雇用契約自体を破棄することは可能でしょうか。
その際に、法律的に問題となることがありましたら教えてください。
急ぎお願いできますと助かります。
よろしくお願い申し上げます。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜減額について
>① 看護師長候補ということで、基本給、管理職手当を提示して雇用契約を結んでい
>ますが、
>基本給、管理職手当の金額を下げることは可能でしょうか。
>この際、再契約ということで、もう一度契約の取りかわしが必要でしょうか。
既に契約をしてしまっている以上、
一方的に給与(管理職手当も含む)の減額を行うことは法律上は難しいです。
>看護師長となるスタッフの
>医院長、副院長に対しての態度が悪く、また看護師長としての資質に問題が
>あることが多々発覚した
とのことで、その理由によってはということもありえるでしょうが、
経歴詐称(しかも看護師として重大部分)などかなり特殊な事情が
ない限り、法的に認められることは難しいでしょう。
この場合、スタッフと改めて合意をする必要があります。
その場合でも、判例上は、「労働者の自由意思に基づくと認められる
合理的な理由が客観的に必要」とされていますが、
両者の話し合いのもと、改めて契約ができれば、
その後問題となる可能性は著しく低くなります。
なお、確かに開業前ということですが、
この点により、経営者サイドが有利になるとは
あまり考えない方が良いでしょう。
2 ご質問②〜契約の破棄について
>この看護師長との雇用契約自体を破棄することは可能でしょうか。
>その際に、法律的に問題となることがありましたら教えてください。
一方的な破棄も、基本的に(減額以上に)認められません。
仮に一方的に契約はなかったことにしてくれと伝えたとしても、
それが無効である以上、契約期間開始時期から給与が発生します。
しかも、使用者(経営者)サイドからの申し出であることから、
その期間は、スタッフが働いていないとしても、経営サイドに
帰責事由があることになりますので、給与の支払義務が生じ
続けるということになってしまいます。
こちらについても、退職勧奨などのように
合意による必要があるでしょう。
思うところは色々とありますが、
一度、雇用契約を締結してしまった以上、
日本の現在の制度では、労働契約は強く
保護されることとなります。
もちろん、
>雇用契約締結後、開業準備を進めていく段階で、看護師長となるスタッフの
>医院長、副院長に対しての態度が悪く、また看護師長としての資質に問題が
>あることが多々発覚
という内容による部分はありますが、
かなり大きな客観的な問題(重大な経歴詐称や犯罪行為を犯した等)
がない限り、現時点で破棄することは
基本的にできないと考えていただいた方が良いかと存じます。
具体的な契約書の締結まで至っていない
内定の取消しにも、解雇に準じた規制がかかるとするのが判例です。
今回は、具体的な契約後ということなので、
通常の解雇とほとんど異ならないと考えられます。
実際に解雇が認められるためには、
手続的に中・長期間かけていろいろな機会を
与えながら行う必要があります(それでも、裁判所で認められる
ハードルは高いです。)。
特に、契約締結が1月、クリニックの開業が4月中旬という
ことで、この短期間での一方的な措置は、かなり部が悪いです。
方針としては、あくまでも対象スタッフとの合意が
なければ難しいと考えた方が良いでしょう。