相続 贈与 不動産 民法 相続税

不動産名義変更に対する金融機関の承諾と未登記の場合の問題

永吉先生

お世話になっております。
●●です。

抽象的なタイトル、内容ですみません。

(前提条件)
・AとBが1/2ずつで所有権登記のある建物(アパート)があります
・この建物には金融機関からの借り入れがあり、債務者はAのみとなっています
・BはAに対し、借入金の一部を負担しています(1/2ではない)
・今回、Bの持ち分をCに贈与または譲渡により移転したいと考えています
・AはBの子、CはAの子です

(質問事項)
・所有権の移転をするにあたり、金融機関の承諾は必要でしょうか
・契約により財産を移転したが、名義変更(登記)をしない場合、問題となる点はどのようなことがありますでしょうか

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律寺事務所の永吉です。

1 ご質問①〜持分の譲渡に金融機関の承諾は必要か?

>・所有権の移転をするにあたり、金融機関の承諾は必要でしょうか

まず、民法上、共有者が自己の持ち分を他人に譲渡することは
原則として自由です。

>・この建物には金融機関からの借り入れがあり、債務者はAのみとなって
>います

ということで、おそらく建物に抵当権等が設定
されおり、その範囲は、建物全部について可能性が高いかと思います。
(この点は、登記簿等でご確認ください。)

この場合、Bは物上保証人となっているわけですが、
物上保証人が変更される場合には、金融機関の承諾を
必要する契約となっているケースも多いので、
契約書をご確認ください。

ただ、契約を無視し、承諾がないからといって、
合意による所有権移転自体の効力が否定される
ということではなく、

金融機関との消費貸借契約違反ということで、
期限の利益喪失し、一括弁済の請求を受けたり、
抵当権の実行を受けたり、遅延損害金等(おそらく、
その場合の損害金はかなり高い率が設定
されています。)を請求されるリスクがあるというところです。
(また、連帯保証の関係も調査された方が良いでしょう。)

孫への贈与でどこまで金融機関が動くのか
というところはありますが、

契約書を確認し、承諾なしに譲渡することが
契約違反になるのかについて確認した上で、
そのような定めがある場合には、承諾を
得た方が良いでしょう。

2 ご質問②〜名義変更(登記)をしないリスク

(1)第三者との関係

まず、仮にBがCに不動産を譲渡した後に、
さらにBが別の第三者に不動産を譲渡してしまったり、
Bの債権者から差し押さえを受けたりしたうえ、登記を移転してしまうと、
原則としてCは第三者や差押債権者に自己の所有権を対抗できません(民法177条)。

つまり、最終的に第三者等の不動産取得者が確定的に
所有権を取得してしまいます。

(2)相続や税務との関係

ア Bの相続が発生した場合

所有権移転登記をしていないと、
下記の贈与税・相続税との同じ論理で、
そもそも譲渡(特に贈与のケース)が否定され、
Bの共有持分は、Bの相続財産であるとして、
Aを含む他の相続人とのトラブルになる可能性が
あります。

イ 課税等について

もちろん、名義変更(登記)は、契約が先に
あって、形式的になされるものに過ぎない
というのが原則なのですが、

これまでの裁判例の中で、
贈与契約書はあるが、名義変更がされていない
事案で、

贈与契約書は形式的に記載したものに過ぎず、
実際の贈与時点は、名義変更時であるとして、
名義変更時に贈与税が課せられた事案(ですので、
契約書の記載にかからず、時効も名義変更時点から)

公正証書による贈与契約書があっても、実際には所有権の移転する
意思はなく、相続税の課税対象となり、重加算税の対象
となるとされた事案等があります(東京地判平成18年7月19日等)。

これらの裁判例等では、
所有権移転登記をしないことは通常考えらず、
かつ、贈与契約書時点で財産の移転を必要とする合理性が
ないことなどを理由に判断されています。
(私の著書である「民事・税務上の「時効」
解釈と実務」の254頁〜261頁等にも詳細に記載があります。)

よろしくお願い申し上げます。

なお、BがCの債務を負担しているという点は、ご質問の対象とは
なっていませんが、BのCに対する求償権となるのか贈与となるのか、
単なる債務返済なのか等は、法律関係より別途問題がありますので、ご注意ください。