相続 遺産分割 相続税

遺産分割協議書の作成後に新たに見つかった相続財産について

前提条件

・相続人はA、Bの2人
・遺産分割協議書の作成後に相続人Aが隠していた財産が見つかる。
・新たに発見された財産は預金(現金)
・相続開始直前に1,000万円を引き出しているため預金残高は数千円
・遺産分割協議書には協議書に個別記載された財産以外は相続人Aが
 取得する旨の記載がある。
・直前に引き出された1,000万円を相続財産(被相続人の現金)と考える。
・直前に引き出した現金は相続人Aの預金通帳に入金済
・1,000万円についてはA,Bが半分づつ取得する予定。

質問事項

・追加遺産分割協議書を作成するべきか。
・追加遺産分割協議書を作成する場合の記載の仕方。
・この1,000万円をAとBが半分づつ取得する追加遺産分割協議書を作成しても
 Aから Bに対する、みなし贈与の可能性はないのか。
・相続人間の争いに巻き込まれないため税理士として注意することは何か 。

以上よろしくお願いいたします。

税務と法務の問題が錯綜する部分で、
説明が長文になってしまいすみません。

1 回答の結論
(1)ご質問①〜追加遺産分割協議書の作成〜

>・追加遺産分割協議書を作成するべきか。

民事上・税務上のどちらの観点からも、
追加遺産分割協議書を作成するべきと考えられます。

(2)ご質問②〜追加遺産分割協議書の記載方法〜

>・追加遺産分割協議書を作成する場合の記載の仕方。

こちらは、下記の回答の理由の通り、
税務署対応(税法上ではなく)
と民事上の問題の
バランスをどう取るかという点はありますが、

結論として、今回は、下記を記載した
協議書を作成しておいた方がよいでしょう。
・従前の遺産分割協議が錯誤により無効(民法95条)であること
・1000万円が相続財産に含まれること
・1000万円をA、Bで500万円ずつ取得すること
・その他の財産の分割方法は従前と同一内容を記載

具体的な記載方法と詳細な解説は
下記の「2 回答の理由」を
ご確認ください。

なお、仮に申告前であれば、
実務上、税務署との関係では、あまりうるさいことを
言われないかとも思います。
税法上は、今回のケースで錯誤無効ならば、
問題がないとしても、
遺産分割が2回目だということが追加協議書から
明確になりますので、調査等で指摘を受ける
材料にはなってしまうと思われます。

他に不動産の登記を既にしてしまい日付が矛盾する等
の事情がなければ、このことも考慮して、

・従前の遺産分割協議が錯誤により無効(民法95条)であること
・1000万円が相続財産に含まれること
という部分を切り離して、別途合意書を作り、

単純に1,000万円も含めた相続財産を
どのように分割するかという内容のものを、
上記とは別に作成しておくという方法も
一応あり得るところかと思います。

ただ、このあたりは、より具体的な
事情を聞いた上での個別判断的な要素が
強いので、必要があれば、無料の面談相談
をご利用いただければと思います。

(3)ご質問③〜みなし贈与の可能性〜
>Aから Bに対する、みなし贈与の可能性はないのか。

遺産分割のやり直し(相続税基本通達19の2-8ただし書)
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/06.htm#a-19_2_8
として、形式上、贈与税対象とも見えますが、

合意により解除して、やり直すケースではなく
錯誤(民法95条)という法律で定められた無効となる
要件を充足しているというケース(当初から無効)
として、贈与税の対象とはならない可能性が高いです。
(特に今回は、分割内容自体の錯誤の類型ですので)

ただし、税務署としては指摘してくるところ
かとも思いますで、「錯誤による無効」である
ということをしっかりと基礎付ける
証拠の作成及び準備は必要かと思います。

(4)ご質問④〜税理士の先生が紛争に巻き込まれないための注意点〜
>・相続人間の争いに巻き込まれないため税理士として注意することは何か 。

争いに巻き込まれないためにという観点から、
相続人両名から依頼を受けている場合と片方から受けている
場合に分けて説明します。

ア 相続人両名から申告の依頼を受けている場合

まずは、
>・1,000万円についてはA,Bが半分づつ取得する予定。

A,B両名が、この予定については、
争いがないのかについて、
しっかりご確認ください。

仮に、争いがありそうであれば、
合意内容は本人同士に
完全に任せるということにし、

税務上の説明(リスクを含む)のみに
し、それ以上のお話はされない
方が良いかと思います。
この場合、税理士の先生ご自身による
説得や仲介役等の行為はお控えになられた
方が良いです。

そして、両者にまとまった合意の結果を
教えてもらうようにと伝えておくという
ことかと思います。

争いがないということであれば、
上記の内容で進めていくことになると
思いますが、その過程で、争いが
ありそうであれば、その時点で、
合意内容は本人同士に
完全に任せるという上の方法を
とるということが良いと思います。

なお、
>・遺産分割協議書の作成後に相続人Aが隠していた財産が見つかる。
という事案ですと、
比較的、紛争が顕在化するおそれもある
かと思います。
争いがあるのかの確認は慎重になされた
方が良いです。

また、お客様や経営との兼ね合い、当初
の委任契約の内容も関係しますが、
申告前であれば、この時点で、追加の分割案
がまとまらなければ、申告業務を行わない
旨などの合意(誓約書等)をしておくという
ことが、安全です。

なお、争いが強い場合には、
弁護士を紹介する等も
検討しても良いでしょう。

イ 相続人片方から申告の依頼を受けている場合

この場合には、依頼者様に
すべて説明した上で、
交渉は、本人同士にやってもらうという対応で
良いかと思います。

また、争いが強い場合には、
依頼者様に弁護士を紹介する等も
検討しても良いでしょう。

2 回答の理由

(1)ご質問①〜追加遺産分割書の作成〜

ア 民事的な視点

民事的な視点からすると、仮に遺産分割協議書の
作成がなければ、この1000万円が誰のもの
なのかについては、何ら解決していないことに
なってしまいます。
このまま行くと、従前の遺産分割協議書の内容の
通り、原則として、相続人Aのものになるとされ、

Bがそれを錯誤による無効(民法95条)等で
争うということになります。

この場合、錯誤無効の主張が裁判などで認め
られたとしても、未分割の状態に戻るだけですので、
改めて、遺産分割協議をする必要があります。

紛争を防止する
という観点から、遺産分割協議書の追加作成は
必須と考えられます。

イ 税務上の視点

従前の遺産分割協議書を前提とすると、
この1,000万円は、

>・遺産分割協議書には協議書に個別記載された財産以外は相続人Aが
>取得する旨の記載がある。

ということですので、
Aに帰属するという証拠が残っている状態です。

この状況のまま、Bに半額を移せば、証拠の関係上、
贈与と認定されるリスクが高いです。

そういう意味でも、遺産分割協議書を追加作成
する必要性は高いと思われます。

(2)ご質問②〜追加遺産分割協議書の記載方法〜

ア 民事上の観点

民事上の観点からは、
相続人の全員の合意があれば、
遺産分割のやり直し(「遺産分割」と呼ぶか、「別段の合意」
と呼ぶかは別として)
は、認められます(最高裁平成2年9月27日)
ので、

・従前の遺産分割協議書の合意内容を無効とすること
・1000万円が相続財産に含まれること
・1000万円をA、Bで500万円ずつ取得すること
・その他の財産の分割方法は従前と同一内容

を記載しておけば、特に問題はありません。
(記載例は下記にあります。)

イ 税法上の観点

(ア)解説

こちらは、ご質問③の理由ともなる部分ですが、
便宜上こちらで説明します。

遺産分割をやり直す場合、
(相続税基本通達19の2-8ただし書)
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/06.htm#a-19_2_8

から、形式上贈与税対象になるとも思えます。

この通達は、一旦遺産分割協議が成立し、財産の帰属が確定
しているにもかかわらず、相続人が合意により解除し、
財産の配分をやり直すことで、相続税額の変動等は生じない
とするものです。

しかし、今回のケースのようなそもそも
遺産分割の前提となる相続財産が異なっていた
ようなケースでは、

従前の遺産分割協議の合意解除ではなく、
民法の錯誤無効の要件を満たせば
従前の遺産分割協議自体が、その協議の時から
無効であったとされることになります。

特に今回のケースのように、
◯分割内容自体に錯誤があるという類型

では、課税の根拠となる
相続財産の取得を欠くことになりますので、

申告前であれば、新しく成立した分割協議に基づき
申告をし、
申告後更正の請求期間内であれば、
更正の請求が認められうると考えられています。
(税負担の錯誤の類型(こんなに税金がかかるなら
このような分割はしなかった等)では、
別の考慮が必要になり
ますが、今回は違うケースなので、省略します。)

問題は、民法の錯誤無効の要件が認められるか
という点です。

(イ)錯誤無効の要件等

まず、錯誤の一般的な説明は、メール
ですと長くなってしまいますので、
私が執筆している
http://zeirishi-law.com/minpou/sakugo
の「1」、「2」をご覧ください。

要は、

①合意の重大な事項について、勘違い(要素の錯誤)があり
②Bが勘違いをしたことに重大な過失がないこと

の2点があれば認められます。
事実認定の問題になることから、
いただいた事情のみでは決定的な
判断はしかねますが、

今回の事例では、
①について、
相続財産の全体を見てみなければ
わからないところはありますが、

1,000万円という比較的高額な
財産が隠匿されていたということなので、
要素の錯誤があると認定される可能性が
高いと思われます。

相続財産がかなり多額であり、1,000万円は
とるに足らないものだということも一応は
考えられなくもないので、全体財産金額から
上記URLの錯誤の記事を前提にご判断
いただければと存じます。

②について、
Aが相続開始前に被相続人の口座から
意図的に引き出しているということ
ですので、今回の事案では、Bには
重過失があるとは言えないと認定
される可能性も高いです。

ですので、厳密な税法上の理解からすると、

上記の民事の
・従前の遺産分割協議書の合意内容を無効とすること
に加え
【錯誤無効という原因により】、従来の
遺産分割協議が無効であることを明確に
した方が良いかと思われます。

ウ 記載例について

(ア)1000万円が相続財産に含まれることの確認

第●条 AとBは、被相続人〇〇名義の下記の口座から
 平成◯年◯月◯日に引き出された1,000万円は、
 被相続人〇〇の相続財産であることを確認する
          記
 銀行名
 支店名
 口座番号
 口座名義

(イ)錯誤無効により従前の遺産分割協議書が無効であることの確認

第◯条 Bは、平成◯年◯月◯日付遺産分割協議書による分割合意の際に
   第●条に定める1,000万円が相続財産に含まれることを認識していなかった。
  2 Bが、第●条に定める1,000万円が相続財産に含まれることの認識を有していなかったのは、
   Aが本件相続開始前に、Bに秘して、口座から現金を引き出したことが原因である。
   (この条項は、Aとの関係で可能であればということになります。
    重過失がないことの証拠として掲載するものです。)
  3 A及びBは、前2項の事実を確認し、平成◯年◯月◯日付の遺産分割協議書
   による遺産分割の合意は、錯誤に基づき無効であることを確認する。

(ウ)1000万円の分割方法

第●条 A及びBは、第●条に定める1,000万円を各2分の1の割合により取得する。

(エ)その他の財産の分割方法

従前の遺産分割協議書に記載のとおりに、分割方法を記載する。

ただし、
仮に、申告前であれば、
実務上、税務署との関係では、あまりうるさいことを
言われないと思いますので、
税法上は、今回のケースで錯誤無効ならば、
問題がないとしても、
その表現が入ると調査等で指摘を受ける原因にもなりえます。

他に不動産の登記を既にしてしまい日付が矛盾する等
の事情がなければ、実務上のことも考慮して、
錯誤無効のことなど記載せずに、
単純に1000万円も含めて分割方法を
記載したものを
もう1通作成しておき、それとは別に

・従前の遺産分割協議書の合意内容を無効とすること
・1000万円が相続財産に含まれること

を合意書を作成するという方法もあるかと思います。

ただ、このあたりは、民事の判断も含め
より具体的な事情を聞いた上での
事案の個別判断的な要素が
強いので、必要があれば、無料の面談相談
をご利用いただければと思います。

(3)ご質問③〜みなし贈与の可能性〜

税法上の判断として、上記になりますが、
調査等で指摘されるリスクや事実認定の
問題も含みますので、一定のリスクが伴う
ことは、依頼者さまにご説明いただいた方が
良いかと思われます。

ただし、申告前であれば、実務上のリスクは
いずれにしろ小さいでしょう。

(4)ご質問④〜税理士の先生が紛争に巻き込まれないための注意点〜
こちらは、上記の回答の結論の通りになります。

長文になってしまい申し訳ございません。

よろしくお願い申し上げます。

以前相談したこのメールの案件ですが紆余曲折があり
結局、相続人代表が1,000万円を取得することになりました。

質問1
この場合でも追加の遺産分割協議書は必要でしょうか

質問2
追加の遺産分割協議書の代わりに相続人代表が取得する旨を
記載した確認書のようなもので代用できるのでしょうか

質問3
相続人代表が取得することになったため税法上は追加遺産分割協議書など追加書類は
必要ないような気がします。書類の作成は必要でしょうか。

ご質問にある「相続人代表」が
どなたかという点が定かではありませんが、

ご質問内容から察するに、最初のご質問
でいうところの「A」なのかなと思いますので、
A個人が取得するものとして回答します。

もし、違う場合はご指摘ください。

1 ご質問①~追加の遺産分割協議書の必要性~
>質問1
>この場合でも追加の遺産分割協議書は必要でしょうか

最初のご質問では、当初の遺産分割協議書に
>>遺産分割協議書には協議書に個別記載された財産以外は相続人Aが
>>取得する

と記載されていたということですので、

遺産分割協議書に記載のない1000万円を
Aが取得するというのは、理論上は
当初の遺産分割協議書のとおりなので、
新たに作成する必要はないかと思います。

2 ご質問②~確認書の必要性~
>質問2
>追加の遺産分割協議書の代わりに相続人代表が取得する旨を
>記載した確認書のようなもので代用できるのでしょうか

ただし、1000万円の帰趨について、将来錯誤
により遺産分割は無効だとBが主張し、
紛争が再燃するおそれがあります。
A・Bどちらの立場なのかにもよるところですが、

・1000万円が相続財産に含まれること

・この1000万円を遺産分割協議書◯条(遺産分割協議書に個別記載された財産以外は相続人Aが取得する旨の記載がある条項)に基づいてAが取得すること

を確認するという確認書を作成されるとよいかと思います。

3 ご質問③~税法上の追加遺産分割協議書の必要性~
>質問3
>相続人代表が取得することになったため税法上は追加遺産分割協議書など追加書類は
>必要ないような気がします。書類の作成は必要でしょうか。

上記のとおり、当初の遺産分割協議書
に基づく内容になりますので、
必要ないかと思います。

よろしくお願い申し上げます。