未分類

取得条項付株式の取得手続について

永吉先生

いつも大変御世話になっております。
税理士の●●と申します。

取得条項付株式の取得手続について、ご教示いただけますと幸いです。

【前提条件】
A社は、普通株式90株、取得条項付株式(甲種株式)10株を発行しています。

取得条項付株式(甲種株式)の内容は、定款に「当会社は、会社成立の日から
5年を経過したときは、甲種株式を、1株当たり金10,000円を交付するのと引換
えに取得することができる」と記載されています。

A社は、会社成立の日から5年を経過したときに、取得条項付株式(甲種株式)
10株を取得することなく、現在に至っています。
現在は、A社が設立されてから8年が経過しています。

【質問事項】
A社設立後8年が経過した現在において、A社が取得条項付株式(甲種株式)
10株を甲種株主から取得する場合、その手続として、A社は甲種株主に対して
100,000円(1株10,000円×10株)を振り込み、振込後、甲種株式の取得代金
(100,000円)を振り込んだ旨を通知すれば、法的に問題ないのでしょうか。

その他、取得条項付株式の取得に際しての注意点がございましたら、ご教示
いただけますと幸いです。

お手数をお掛けしますが、ご回答の程、宜しくお願い申し上げます。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>A社設立後8年が経過した現在において、A社が取得条項付株式(甲種株式)
>10株を甲種株主から取得する場合、その手続として、A社は甲種株主に対して
>100,000円(1株10,000円×10株)を振り込み、振込後、甲種株式の取得代金
>(100,000円)を振り込んだ旨を通知すれば、法的に問題ないのでしょうか。

>その他、取得条項付株式の取得に際しての注意点がございましたら、ご教示
>いただけますと幸いです。

2 回答

取得条項付き株式を取得する場合には、
会社法及び種類株式の内容に従った
手続きを履践する必要があります。

分類すると、取得条項付株式の内容として
・取得日を5年経過後の会社が別途定める日としているいか否か
・取得条項付株式の一部を取得するという定めがあるか
・株券発行会社か否か

により、手続きが異なってきます。

(1)取得日を会社が別途定める日としていない場合

①取得条項付き株式を全部取得する定めになっている場合
(一部とされていない場合)

この場合、取得事由の発生(設立から5年経過)をもって、
会社が当該取得条項付株式の全部を取得することになります。

効力発生後、遅滞なく、取得事由が発生したことを
当該取得条項付株式の株主に対して
公告または通知する必要があります。
公告は手間なので、株主への通知を選択するのが通常です。

この場合、今回は、8年間経過してしまっているので、
「遅滞なく」とはいえませんが、
株主に5年が経過していることを通知して、
振込手続きをすることとなるでしょう。
(厳密には遅延損害金等が発生しますが、
一旦は無視して良いでしょう。)

②取得条項付株式の一部を取得するという定めの場合

この場合は、定款に別段の定めがある場合を除き、
取締役会の決議(取締役会非設置会社の場合は、株主総会の普通決議)によって
取得する株式を決定します(今回は取得条項付株式10株)。

取得する株式を決定したときは、
取得する対象となる取得条項付株式の株主に対して、
直ちに当該取得条項付株式を取得する旨を通知または公告しなければならない
とされています(会社法第169条)。

この場合の効力発生日(会社が取得条項付株式を取得する日)は、
・取得事由の発生日(5年経過日)
・上記の通知または公告をした日から2週間を経過した日
のうち、いずれか遅い日となります(会社法第170条1項)。

(2)取得日を会社が別途定める日としている場合

取得日を、定款に別段の定めがある場合を除き、
取締役会の決議(取締役会非設置会社の場合は、株主総会の普通決議)
によって定めます(会社法第168条)。

①取得条項付き株式を全部取得する定めになっている場合
(一部とされていない場合)

取得日を定めたときは、
当該取得日の2週間前までに、
当該取得日を取得条項付株式の株主に対して通知または公告をしなければなりません
(会社法第168条)。なお、この場合も通知を選択するのが通常です。

②取得条項付株式の一部を取得するという定めの場合

この場合は、定款に別段の定めがある場合を除き、
取締役会の決議(取締役会非設置会社の場合は、株主総会の普通決議)によって
取得する株式を決定します(今回は取得条項付株式10株)。

取得する株式を決定したときは、
取得する対象となる取得条項付株式の株主に対して、
直ちに当該取得条項付株式を取得する旨を通知または公告しなければならない
とされています(会社法第169条)。

この場合の効力発生日(会社が取得条項付株式を取得する日)は、

・取得日と定めた日
・上記の通知または公告をした日から2週間を経過した日

のうち、いずれか遅い日となります(会社法第170条1項)。

(3)株券発行会社の場合

株券を発行している会社は、
上記手続きだけでは足りず、
取得条項付株式の株主に対して株券を提供しなければならない旨の
公告と通知をする必要があります(会社法第219条1項4号)。

この場合、公告+通知となるので、
公告をしなければならないので手続きは煩雑です。
(この場合は専門家に依頼された方が良い可能性が高いです。)

(4)財源規制について

おそらく問題ないと思いますが、
当該株式の取得日における分配可能額を超えた
対価を交付し、取得することはできませんので、
ご注意ください。

つまり、取得日における分配可能額を超える
取得はできないということになります。

ですので、基本的には、取得日を
会社が定める日としているケースが実務上は
多いです。

よろしくお願い申し上げます。