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著作権使用料の支払いを受ける権利の譲渡

永吉先生

お世話になっております、税理士の●●です。
よろしくお願いいたします。

<前提>

個人Aは、Aの創作に係る著作物(楽曲)の著作権を、著作権管理を行う目的で、株式会社Bに独占的に譲渡しました。
この譲渡契約は約10年前に締結されており、その主要部分は後記①の通りです。

契約当時と現在では細部に若干違いはあるかもしれませんが、
「アーティストが著作権をレコード会社等に無償譲渡し、レコード会社等がアーティストに利用実績に応じた著作権使用料を支払う」
というのは音楽業界では標準的な契約の形と思います。

そして今春、Aは破産しました。
Bは、Aの破産管財人Cからの申し出を受け、Cと債権譲渡契約を締結しました。
BがCから、AのBに対する報酬請求権を買い取る、という内容で、その主要部分は後記②の通りです。

<質問>

今春の債権譲渡契約によりBが取得したのは、契約書の文言通り「債権」なのか、それとも「著作権」なのか、どちらが適切でしょうか。

①の契約は「AはBに著作権を譲渡した」にも関わらず「BはAに著作権使用料を支払う」という構成になっています。
権利が譲渡されているのに使用料を支払うという点の理解が難しいです。

また、20年以上前ですが、同業種法人が税務調査を受けた際、税務当局から
「東京国税局の方針に従い、著作権譲渡といえども楽曲等に係る全ての所有権の移転ではなく管理委託に関する報酬請求権の発生として認識する」
と指導されたことがあります。

以上を踏まえ、
①の契約により著作権譲渡が完了していたと考えるべきであれば、Bは②による支出額を印税前払金(流動資産)と処理、
①の契約では実質的には権利を信託したあるいは管理委託をしたに過ぎないと考えるべきであれば、Bは②による支出額を著作権(無形固定資産)と処理、
というのが、現時点の私の考えです。

*① 個人Aから株式会社Bへの著作権譲渡契約の主要部分*

目的
個人Aは、Aの創作に係る著作物(楽曲)の著作権を、著作権管理を行う目的で、株式会社Bに独占的に譲渡します。

地域および期間
(1) この契約に基づき、AがBに対して譲渡する著作権の譲渡地域は、日本を含む全世界とします。
(2) 契約期間は、本契約締結日から著作権存続期間とします。

譲渡の範囲
(1)
この契約に基づきAがBに対して譲渡する著作権は、複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、伝達権、口述権、譲渡権、貸与権、著作権法第27条及び第28条に規定する権利、その他(中略)、現在及び将来においてAが有する一切の支分権及び著作権に基づき発生するいかなる権利をも含むものとします。
(2)Bは、本件著作物に関し、前項に定める権利を排他的に行使し、第三者にその使用を許諾して使用料を徴収することができるものとします。

著作権管理の方法
Bは、本件著作権の支分権または本件著作物の利用形態のうち出版権等及びコマーシャル送信用録音の利用形態に係る権利についてBが自ら管理し、これ以外の権利については一般社団法人日本音楽著作権協会に委託する方法で管理を行うものとします。

著作権使用料
Bは、Aに対し、本件著作権の譲受の対価として、本件作品が使用された場合、別途定めるところに従い、著作権使用料を支払うものとします。

*② 個人Aの破産管財人Cから株式会社Bへの債権譲渡契約の主要部分*

債権譲渡
(1) CおよびBは、Cが、Bに対し、別紙1譲渡債権目録記載の債権を有することを相互に確認する。
(2)
Cは、債権譲渡価額の支払があったときは、債権譲渡日付で、別紙1譲渡債権目録記載の債権およびこれに附帯する一切の権利をBに譲渡し、Bはこれを譲り受ける。

別紙1 譲渡債権目録

破産者Aが、Bに対して有する印税、著作権使用料その他の別紙2著作物目録記載の著作物に関する一切の将来の債権で、令和3年6月1日以降に支払期日が到来するもの

破産者Aが、Bに対して有する印税、著作隣接権使用料、一般社団法人日本音楽制作者連盟からの分配金の支払請求権その他の別紙3原盤目録記載の原盤にかかる破産者Aの実演に関する一切の将来の債権で、令和3年6月1日以降に支払期日が到来するもの

以上

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
かなり難しい問題で長文となりますが、ご容赦ください。

1 ご質問

>①の契約は「AはBに著作権を譲渡した」にも関わらず「BはAに著作権使用料を支
>払う」という構成になっています。権利が譲渡されているのに使用料を支払うとい
>う点の理解が難しいです。
>また、20年以上前ですが、同業種法人が税務調査を受けた際、税務当局から
>「東京国税局の方針に従い、著作権譲渡といえども楽曲等に係る全ての所有権の移
>転ではなく管理委託に関する報酬請求権の発生として認識する」
>と指導されたことがあります。
>以上を踏まえ、
>①の契約により著作権譲渡が完了していたと考えるべきであれば、Bは②による支
>出額を印税前払金(流動資産)と処理、
>①の契約では実質的には権利を信託したあるいは管理委託をしたに過ぎないと考える>べきであれば、Bは②による支出額を著作権(無形固定資産)と処理、
>というのが、現時点の私の考えです。

2 回答

先生のご指摘のとおり、2001年の「仲介業務法」から
から「著作権等管理事業法」への変更で、著作権者であれば、
自己管理として著作権管理を業とすることが法律規制の対象外
となったため、「管理のための譲渡契約書」が一般化しました。
(信託とすれば、信託業法の問題が生じることもあったのでしょう。)

先生のご指摘のとおり、法形式上は

>①の契約は「AはBに著作権を譲渡した」にも関わらず
>「BはAに著作権使用料を支払う」という構成になっています。
>権利が譲渡されているのに使用料を支払うという点の理解が難しいです。

というのは、本来よくわかないものになります。
(おそらく管財人の立場としては、お金が回収できれば
良いだけですので、①の契約書に合わせて包括的(将来)
債権譲渡とすることで、調整したのでしょう。)

私の方でも、関連書籍、著作権関連の裁判例、論文等を調査しましたが、
今回のケースで、どのような処理をするのが適切なのか
という点に関しては根拠となるものを見つけることができませんでした。
(ご質問いただいたのに申し訳ありません。)

以下は、私なりの考え方の道筋となります。

(1)①の契約で「譲渡」と評価しない考え方

おそらく①の契約には、契約が解除等で終了した場合には、
著作権がAに復帰するような規定はありませんでしたでしょうか。

その場合、①の契約による著作権の譲渡は、管理等の委託のための
形式上のものに過ぎず、この時点では税務評価上の「譲渡」を
観念しないという考え方はあり得ると考えます(譲渡担保と似た構成)。

おそらく、
>また、20年以上前ですが、同業種法人が税務調査を受けた際、税務当局から
>「東京国税局の方針に従い、著作権譲渡といえども楽曲等に係る全ての所有権の移転>ではなく管理委託に関する報酬請求権の発生として認識する」
>と指導されたことがあります。

というのはこの考え方に近いものでしょう。

>①の契約では実質的には権利を信託したあるいは管理委託をしたに過ぎないと考え
>るべきであれば、Bは②による支出額を著作権(無形固定資産)と処理、
>というのが、現時点の私の考えです。

そのように考える場合、先生の上記の考え方と親和性が強いでしょう。
ただ、このような考え方をとっても、

管財人の②の契約では、著作権の帰属自体にはフォーカス
しておらず、Aに実質的な著作権が帰属していると評価するのであれば、
そこから発生する債権をBがすべて取得できる契約という評価も可能ですので、
論理必然ではないように思います。

②の契約でなぜ、突然、著作権の譲渡が生じるのかが明確ではないため、
この考え方をとった場合、将来債権を取得したからといって、
「著作権」という法的な権利の取得が生じたと会計・税務上評価するのか
という点が明らかではないからです。

「完全な」著作権の利得を得られる形になったため、その時点で
「著作権」を取得したと「評価」するということになるのかとも思いますが。

(2)①の契約で「譲渡」があったと考える場合

一方で、①の契約で譲渡完了しているということであれば、

>①の契約により著作権譲渡が完了していたと考えるべきであれば、
>Bは②による支出額を印税前払金(流動資産)と処理、

という処理に親和的かと思いますが、
この場合、②の債権譲渡は、裏を返せば、
BのAに対する債務をBに包括的に譲渡
するというものになりますので、この譲渡を受けた時点で、
民事上は、混同により債権・債務が消滅することに
なる可能性が高いかと思います。

これを印税前払金として評価するべきなのかという点に
関しては、少々疑問が残るところです。

もちろん、①の契約上の地位自体は、AとBに残って
おり、AからBへの債権発生と同時にAからBへ債権が
移転するものと評価することで、②の契約時点では
混同は生じないという考え方もあるかとも思いますが、
②の契約の合理的意思解釈からすると難しいように思います。

(3)まとめ

明確な解がだせず、申し訳ございません。
上記の問題は、①の契約の問題、②の契約の問題を
どこに当てて考えるかで、循環する問題なように思われます。

税務署としても、確定的に何が正しいのか
は、わからない部分かと存じます(最終的には裁判で明らかにするしかない部分)。

これまでのB社の会計処理と矛盾のない形で、
メリット・デメリットを説明の上、ご判断いただく他ないように思います。

メールの文面のみで意図することがお伝えできているのか
不安な部分もありますので、
もし、必要があれば無料面談(web含む)等をご利用ください。
それでも明確な解がでるわけではないと思いますので、
先生の壁打ち程度のお力にしかなれない可能性が
高いので、申し訳ないのですが。

もちろん、税務訴訟などであれば、
どの立場になっても、一定程度合理的な主張は
できる案件かとは思われます。

よろしくお願い申し上げます。