【概要】
約30前から2件の地代(土地の賃貸借契約書は無し)の供託を受けており令和3年5月に死亡。
相続人は供託の経緯などの詳細は知らないが供託通知が届いているので法務局で供託事件一覧を取り寄せ供託金額の合計も確認した。
2件の供託金合計は約1200万円。
供託通知書にある供託の事由は次の通り
①「更新をめぐり係争中その後賃料値上げをめぐり係争中、あらかじめ受領拒否」
②「明け渡しをめぐり係争中、予め受領拒否」
借地人(供託者)の概要
・①の借地人は20年以上前に相続により建物所有者が変わり供託者も同様に建物所有者に変更されている。
・②の借地人(登記上の建物所有者)は供託開始当時から同宅地には住んでいない(当時より高齢のため地方の親族等の家に居候されていた。その旨分かる当時の手紙あり)
・供託を受ける前に被相続人と②の借地人が賃貸借契約を更新しようとしていた契約書の草案が見つかった。特約として借地人の死亡後土地の返還(明け渡し)を求める内容だったが借地人の署名は無かったので締結に至ってないと思われる。
・②の借地人所有の建物には供託開始当初より第三者が住んでいるとおもわれ(表札や近所のうわさ)、建物登記も借地人が昭和34年に相続で移転してから更新されていない。
・おそらく住人である第三者が②の借地人名で現在まで引き続き供託されている。
【質問】
・相続税の計算上、相続開始時点までの供託金を相続財産とし土地は底地評価で良いのでしょうか?
・②の供託金をもらうと明け渡しをしないことを受け入れたことになるのでしょうか?
・②の借地人が不存在の場合でも供託金を受け取ると現在まで引き続き土地の賃貸借は続いていることになるのでしょうか?
・②の借地人を探す方法、不存在の場合の対応方法等を教えてください。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜相続税申告との関係
>・相続税の計算上、相続開始時点までの供託金を相続財産とし土地は底地評価で
>良いのでしょうか?
そうですね。
厳密には、借地権(各建物所有者の土地の賃借人の地位)が
相続開始時点で存在しているかという点に依存しますが、
おそらくご事情を見る限り、経緯等の詳細も
現時点で相続人の方もわからないことが多く、
具体的に各建物所有者と交渉や裁判等をしなければ、
厳密に判断することは難しいでしょう。
相続税申告との関係では、
現時点においては、
被相続人が生前に整理しなかった以上、
税理士の先生のお立場で、これ以上の確定は難しいと思われます。
・実際に土地上に他人の建物があり使用されている事実、
・賃料とも解される金額が供託されている事実、
・供託者の概要を見る限り、明確に解除事由等となる事実がないこと
(なお、②の借地人が借地上の建物を第三者に利用させる行為等については、
原則として無断転貸等には該当しません。)
などからすると、先生のご指摘の方法で申告する
ことが素直かとは思われます。
最終的には申告期限までに、
建物所有者らと調整つかない場合、
事情を説明した上で、依頼者様の意思決定を
仰ぐこととなるでしょう。
(おそらく申告期限までに調整がつく可能性は
低いものと考えられます。)
2 ご質問②〜供託金の受領と借地権
>・②の供託金をもらうと明け渡しをしないことを受け入れたことになるのでしょうか?
理論上は、
仮に供託者が借地権者ではないとされる場合
であっても、不法占有がされていた損害賠償として
地代相当額の請求が可能であることからすると
供託金の受領があれば、絶対に借地権の存在する
とされるわけではありませんが、
借地権者として認めたという重要な間接事実になる可能性が高いです。
この辺りは、今後相続人の方が、当該土地の明渡請求の
法的手続きを行うのか等も含めて、見通しを立てた上での
対応が必要になると存じます。
見通しを立てずにとりあえず、受け取る等の対応は
やめた方が良いでしょう。
一方で、少々小難しい話なのですが、
紛争化させることで、供託の原因となっている
地代債権の消滅時効を借地人側から援用されてしまうと
借地人が5年より前の部分について、供託金を引き上げ
られてしまう可能性もありますので、注意が必要です。
明渡しを求めるとしても、弁護士を選任するとは思いますので、
弁護士と協議の上、受領するか、また受領するとしてもどのタイミング
で行うかなどについて意思決定していく必要があります。
3 ご質問③〜借地人が不存在の場合
>・②の借地人が不存在の場合でも供託金を受け取ると現在まで引き続き
>土地の賃貸借は続いていることになるのでしょうか?
>・供託を受ける前に被相続人と②の借地人が賃貸借契約を更新しようとしていた
>契約書の草案が見つかった。
>特約として借地人の死亡後土地の返還(明け渡し)を求める内容だったが
>借地人の署名は無かったので締結に至ってないと思われる。
との事情からすると、借地人に相続が発生していた場合、
相続人が存在すれば、借地権がその者に承継されている
こととなります。
仮に相続人もいないという場合であれば、
本来は、相続財産管理人の選任の申立てを行い
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html
相続財産の清算手続きを行うことになります。
実務上、建物居住者も借地人であり、
借地人以外建物を利用している者がいない
場合には、相続財産管理人がそのまま
消滅させてくれる例が多いです。
ただ、今回のように建物利用者に第三者が絡んでいる場合、
借地権がある前提ですと、
相続財産管理人が、借地権の土地所有者への売却交渉や
建物利用をしている第三者への借地権譲渡の承諾許可
の裁判所への申立てをするなどの対応をして、
利害関係を調整して、清算することも多いです。
本件であれば、この手続中に、
借地権が消滅しており、明渡しを求める等を
相続財産管理人と争うこととなったように
思われます。
したがって、借地人が不存在であることを
理由として、直ちに、土地の賃貸借が
終了しているというわけではありません。
ただ、相続開始がかなり前であり、
長期間放置されたことで信頼関係が破綻したとして、
解除を主張するという方法もあるように思います。
(この主張による解除が認められた場合、
解除通知時に賃貸借契約が終了しますので、
相続開始時点では、
借地権は存在している前提となります。)
4 ご質問④〜借地人を探す方法
>・②の借地人を探す方法、不存在の場合の対応方法等を教えてください。
まずは、利害関係人または税理士・弁護士の職務上請求
として、供託通知書と登記簿上(記載住所が異なる場合
両方の住所で請求することが良いでしょう。)
の借地人の住所から住民票の写しを請求して、取得します。
(住民票の除票となってからの保存期間は、
法令は改正がなされ令和元年6月20日以降は150年間となりますが、
それ以前は5年ですので、借地人の死亡時期により取得できない場合もあり得ます)
住民票の写しを取得して、死亡となっている場合には、
住民票から本籍地がわかりますので、
戸籍謄本の取得請求をして、相続人となる者がいるかを特定します。
相続人が不存在の場合には、相続財産管理人の選任申立てを
行い相続財産管理人に建物収去土地明渡請求等の対応をしていく
こととなります(申立てのタイミングは上記の時効との兼ね合いも
含めて注意が必要です)。
その他、そもそも住民票の写しの取得ができない場合には、
正攻法では解決が難しいため、現在の建物利用者に接触を
試みたりと、事案により対応は様々かと思います。
その他、建物利用者への訴訟などを通じて
借地人の状態を明らかにしていくというような方法も
あり得るでしょう。
おそらく、弁護士への依頼なしで
解決していくのは極めて難しい場合が多いと思われます。
ご依頼者様のご希望があれば、会員様の無料面談等もございますので、
ご活用ください。
よろしくお願い申し上げます。