いつも、お世話になります。歯科医業の引継により受取る対価について質問させてください。
(前提)・被相続人 歯科医師
・相続人 配偶者、先妻の子(未成年)
・歯科医院の土地建物は、被相続人の父名義
・歯科医師の死亡に伴い、歯科医院の不動産を別の歯科医師が賃借し営業する方針で進行中
・遺産分割協議中
・歯科医院の内部にある機械等一式、及び顧客引き継ぎ等の対価として、合計500万円を引継予定の歯科医師から受領予定。
・医師、弁護士等のようにその者の技術、手腕又は才能等を主とする事業に係る営業権で、その事業者の死亡とともに消滅するものは、評価しない(財産評価基本通達165)
・歯科医師の顧客承継の対価は、営業権の譲渡に係る収入金額ではなく雑所得の収入金額に算入する。 TKC税務Q&A歯科医師の廃業に伴う有償による事業承継に係る対価の所得の種類の判定(参考:昭和42年7月27日付直審46「税務及び経理に関する業務」の譲渡に伴う所得の種類の判定について(個別通達))。
(質問) 本事例の場合、この顧客承継の対価は、誰に帰属するのでしょうか。
実際に、一連の引継活動をした者が被相続人の父親であれば父親、配偶者であれば配偶者の雑所得になるのでしょうか。 顧客承継の対価に関して、先妻の子にも対価を渡す必要性等はあるのでしょうか。
以上になります。宜しくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>本事例の場合、この顧客承継の対価は、誰に帰属するのでしょうか。
>実際に、一連の引継活動をした者が被相続人の父親であれば父親、
>配偶者であれば配偶者の雑所得になるのでしょうか。
>顧客承継の対価に関して、先妻の子にも対価を渡す必要性等はあるのでしょうか。
2 回答
>実際に、一連の引継活動をした者が被相続人の父親であれば父親、
>配偶者であれば配偶者の雑所得になるのでしょうか。
理論上は、非常に難しい問題ですね。
まず、個人の歯科医師の場合、
その者が死亡した時点で、顧客との契約は
誰にも承継されず、診療契約は終了しますので、
名目として、顧客「承継」の対価というのを
観念することが難しいです。
この場合、顧客承継の対価という
名目での譲渡の場合でも、
実質的には相続開始後に行われた
紹介契約者から後継の歯科医師に対する
「顧客紹介料」というのが実態に合致するものと考えられます。
なお、純粋な税法上は、後継の歯科医師が個人(事業主)の場合
相続税法21条の3第1号の適用がないため、
契約者から贈与税の対象となる可能性(対価性の意義)は
あるものと思いますが、先生のご指摘の個別通達の存在など
からしても、実務上は、契約した者の雑所得として
処理されている可能性が高いものと考えます。
本件でも、
父親が顧客紹介の対価を受け取る契約者となる場合には、
第三者である歯科医師が建物賃借権を得る、
妻が顧客紹介の対価を受け取る契約者となる
場合には、第三者である歯科医師が内部機械等一式の譲渡を受ける
ことに付随しているという側面があるため、課税庁としても
贈与税の問題にするのは難しいということなのかとは思います。
また、歯科医師からの承継(自らの顧客を斡旋した場合)と比較すると、
実態として、後継の歯科医師からすると
その場所・設備さえ利用できれば良いという側面もあるため、
「役務の提供の対価」とはいえず、一時所得として認められる可能性も
なくはないですが、「顧客引き継ぎ等の対価」(顧客紹介の対価でも同様)
であることが明示されていたり、引き継ぎのオペレーションに協力すること等の
事情があるとすると実務上は難しいように思われます
(税務訴訟で争う価値はあるとは思いますが)。
>顧客承継の対価に関して、先妻の子にも対価を渡す必要性等はあるのでしょうか。
相続開始後の顧客紹介料ということで、
先妻の子に払う必要性が論理的にあるわけではありませんが、
実務的には、
歯科医院内部にある機械等一式(被相続人が建物を父から賃貸していた場合には、
建物賃借権も含む)を相続する者(配偶者)を確定した上で、
父親または妻が後継の歯科医師と合意をするということとなるでしょう。
遺産分割前ですと、譲渡に先妻の子も動産に持分を
有しており、契約者となる必要がありますので、
その場合に、先妻の子に対して平等に対価が支払われない
とするとその契約を拒否される可能性が高いのではないかと
考えられるからです。
よろしくお願い申し上げます。