お世話になっております。
死亡退職した従業員の退職金と給与の振込先についてお尋ねします。
死亡退職した従業員の法定相続人は
子、父、母
です。
配偶者は離婚したのでいません。
質問①
退職金規程、給与規程等での振込先の定めは
退職金については有効、給与については無効
とする下記の見解は正しいですか?
https://jinjibu.jp/qa/detl/98914/1/
質問②
規程で振込先(受取人)が「遺族」とされている場合、
この「遺族」というのは相続人という理解でよろしいでしょうか?
質問③
「遺族」には、どのような手続きで支払えば法的に問題にならないですか?
例えば
遺産分割協議書の写しを提出してもらってから振り込む
戸籍謄本を提出してもらって法定相続分を振り込む
というような手続きが必要でしょうか?
できるだけ具体的に教えていただけるとありがたいです。
質問④
振込先の定めがない場合又は規程での振込先の定めが無効の場合
相続人が受取人になるという理解で間違いないでしょう?
質問⑤
その場合にどの「相続人」に、どのような手続きで振り込めば
法的に問題にならないですか?
(質問③と同じように考えればよろしいでしょうか?)
よろしくお願いいたします。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
法理論上、複数の論点を含むため、
少々長文となりますが、ご容赦ください。
0 前提について
>死亡退職した従業員の法定相続人は
>子、父、母
>です。
>配偶者は離婚したのでいません。
まず、法定相続人ですが、
第1順位相続人が子になりますので、
子が存在する場合、
基本的に第2順位直系尊属である親が法定相続人となる
ことはありません。
特殊なご事情があるのかとも
思いましたが、念のためご確認いただいた方が良いかと思います。
1 ご質問①
>退職金規程、給与規程等での振込先の定めは
>退職金については有効、給与については無効
>とする下記の見解は正しいですか?
>https://jinjibu.jp/qa/detl/98914/1/
ご指定のU R Lは色々な議論が混ざってしまっている
のかと思いますので、整理して回答します。
(1)退職金について
まず、死亡退職金が相続財産となるのか、
受給者の固有財産(相続税法上のみなし相続財産)
となるのかという点については、
死亡退職金には
賃金の後払い的な性質と遺族の生活保障としての性質
などがあることから、一律に解されるものではなく、
個別具体的事案に応じて判断するというのが判例の考え方です。
厳密には、
支給基準、受給権者の範囲または順位などの規定、
従来の支給慣行や支給経緯等から
個別的に判断されることとなります(最判昭60年1月31日等)。
例えば、規定上の受給権者の順位が法定相続と異なるなどの事情があれば、
特に、相続とは異なる遺族の生活保障としたものであると
され、固有財産と認定されることとなります。
ご質問②からの推察ですが、
本件では、退職金規定に「遺族」とのみ定められているものかと思われます。
このような定めは古くから個別事情による証拠からの
事実認定と評価の問題として、地裁、高裁、最高裁でも
個別事情により結論が分かれるような問題です。
(上記の最判昭60年1月31日はこのような事案です。)
ですので、本来はこのような定め方の死亡退職金の規定を
設けておくことは問題があります。
この場合、会社として最も安全なのは、
子、父及び母(その他、事実婚の妻や同居の親族がいれば
それらの者も)から
退職金がこれらの者のうち「特定の者(例:子)」の固有財産である
ことを確認するという書面をもらった上でその者に支給する
というのが安全な方法ということになります。
(もらえない場合には、支給できないと伝えることで、取得できることも実務上多くあります。)
より厳密に行う場合には、本人確認のため
印鑑について実印を要求し、印鑑証明書をもらう
という対応をすることとなります。
個人的には、従業員の死亡退職金規定において、
「遺族」という表現が取られた場合、
通常の退職金の場合は、
業務上の死亡ではないので場面が異なると思いますが、
遺族補償(労働基準法79条)の受給者を定める
労働基準法施行規則42〜45条の意味で利用された
ものと認定される可能性も比較的高いかとは思いますが、
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000100023_20210401_502M60000100203
裁判所はあくまでも個別事情から判断という立場を
崩していないため、クライアント様には
できれば上記の最も安全な対応をしてもらうことをまずはお勧めします。
(2)未払賃金について
未払賃金については、そもそも死亡した
従業員の債権ですので、相続財産に該当します。
この点について、争いはないでしょう。
ですので、相続人に帰属することとなります。
なお、相続財産となるとしても、従業員が死亡した場合には、
給与規定により一定の者に支給するとすることで会社が免責されるのか
(あとは「相続人内部の問題」とする)という点は理論上は、
別途ありえるのかもしれませんが、
会社の規定があるからといって認められることではないでしょう。
つまり、法定相続人に支払うこととになります。
なお、法定相続人が複数いる場合については、
ご質問③をご参照ください。
2 ご質問②
>質問②
>規程で振込先(受取人)が「遺族」とされている場合、
>この「遺族」というのは相続人という理解でよろしいでしょうか?
ご質問①のとおりですので、
「遺族」とのみされている場合には、
「相続人」という理解ができるわけではありません。
3 ご質問③
>質問③
>「遺族」には、どのような手続きで支払えば法的に問題にならないですか?
>例えば
>遺産分割協議書の写しを提出してもらってから振り込む
>戸籍謄本を提出してもらって法定相続分を振り込む
>というような手続きが必要でしょうか?
>できるだけ具体的に教えていただけるとありがたいです。
死亡退職金についてはご質問①のとおりです。
相続財産となる未払賃金については、
戸籍謄本を提出してもらって法定相続分で振込む
という対応で、会社としては免責されます。
ただし、遺言や遺産分割(相続人の全員の同意で
遺産分割対象とした場合)により、未払賃金債権が
特定の相続人が譲り受けたとの通知を受けた場合には、
その特定の相続人に支払う必要が生じます(民法第899条の2参照)。
なお、リスクない方法
(相続人間のトラブルに巻き込まれない方法)
としては、誰のどの口座に支払うかについて
法定相続人の全員の同意(押印)がある
書面をもらった上で行うという対応をしている会社もあります。
この場合、より厳密には、
戸籍謄本及び本人確認のため印鑑について実印を要求し、
印鑑証明書をもらうという対応をすることになります。
実務的には金額が少額の場合には、
そこまでしていない会社も多いですが。
4 ご質問④
>質問④
>振込先の定めがない場合又は規程での振込先の定めが無効の場合
>相続人が受取人になるという理解で間違いないでしょう?
退職金の場合は、ご質問①のとおりです。
未払賃金の場合は、ご指摘のとおりです。
5 ご質問⑤
>質問⑤
>その場合にどの「相続人」に、どのような手続きで振り込めば
>法的に問題にならないですか?
>(質問③と同じように考えればよろしいでしょうか?)
退職金の場合には、ご質問①のとおり、
未払賃金の場合には、ご質問③のとおりです。
なお、より詳細に規約等や金額など個別事情から、
現実的な線引き等についてご相談したいとのご希望が
ございましたら、以下の無料相談をご利用いただくことも
可能ですので、ご希望があればご検討ください。
よろしくお願い申し上げます。